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第114話  誘われた案山子

 人間――高度な知恵と文化を持つ種族の性質上、肝試しに似たようなものはどうしても生まれる。

 だが、そういうものは……時に、生みの親に牙を剥く。


 ――怨霊


 怪談話、肝試し……霊を示す具体的な行動に、霊は引き寄せられる。

 霊にも、人に害を為すものも、為さないものもいる。もちろん、益を為すものも、なさないものも。


 まあ、こういうときに呼び寄せられるのは大抵……害を為す方の霊だ。




 王女は見えている。

 まあ、海龍エルゲレン討伐時に出現した幽霊船に乗る幽霊はハッキリ見えていたようだし、霊感はあるのは知っていた。

 あれらはアルグレットの血で強化されていたせいか、半ば霊の括りから外れかけていたが……。まあ、それはともかく。


 ――霊の気配を感じられるとなると、話はその上を行く。


 霊を見る、感じるのに必要なものが、俗に言われている、霊感だ。

 そして霊を一つの事象として認識するのに必要なエネルギーが、霊力。


 アルグレットも僅かに霊力があるようだが……この量は精々、霊感だろう。

 霊の気配は感知できていないが、物音ラップは聞こえているようだしな。


 ……ああ、あちこちで霊の音楽(ラップ)はしているぞ。

 明らかに自然の音じゃないしな。すぐにわかる。


 霊の気配に中てられた物質が奏でる不協和音。それがラップ。


「アルグレット、お前は霊感だけはあるようだが、その程度だな」

「れいかん? ……あくま……だからじゃない?」


 “あくま(悪魔)”の部分を声を落として喋っていたが、何も言わなくても良かったぞ。

 何かを言いたい雰囲気さえ出してくれればな。

 ……ま、声に出さないとわからないこともあるもんな。


「そういうものなのか?」

「うん。向こうはこっちより、霊たちと密接な関係……見えるのが当たり前だから。そのせいじゃない?」

「……が、見えるだけ、と……」

「…………そうね」


 向こうはきっと、霊も住民なのだろう。互いに干渉はできないが、同じ秩序の下にあるのかな。

 それなら、一般民に霊力はいらないな。


 だって、一定以上の霊力がないと霊と干渉できないんだし。逆もまた然り。




 …………一応、保険を張っておこう。


 あくまで、これらは霊力のあった人生のほぼ共通事項だった事柄を述べているだけだ。

 まあ、大した違いが生ずるものではなかったし、この世界もそうだと思うんだがな……。

 魔力や気もそうだ。魔法の種類ぐらいだ、違ったのは。


「王女は霊力があるようだが…………自覚はあるか?」

「…………れいりょく?」

「なるほど、いい機会だ。予定よりも大分早いが……特別レッスンだ」


 霊力を知覚するための方法を、私は知らない。

 だって魔力同様、何となく使えたからな……。


 ……ってなわけで、霊力なるエネルギーを感じてもらい、内に眠るエネルギーを感じてもらうとしよう。


 私の訓練は基本、フィーリングだ!


 数千年もの年月、あらゆる術を極めようと努力してきた。

 私のこれは、努力の継承によるものだ。かなりのパワープレイであることに変わりはないがな。


「王女、よく見て、感じろ。……これが霊力だ」


 私は剣――〈武器創造クリエイト・ウェポン〉で作り出したやつ――に霊力を流し込んだ。


「わかるか?」

「…………」


 微妙か。

 私は念の為、霊力の小さな塊を王女に投げて渡した。


「これ…………」

「そう、それが霊力。強いて言うなら、気に似てるかもな。……だが、才能がすべてを決める」

「私は……どう?」

「最高だな。私や会長以上の霊力量。完全に扱い方を習得したとき、お前は今以上に化けるぞ。私が保証する」


 王女は、気や魔力、身体能力……どれを取っても、ずば抜けた才能を持っていた。

 王族だから……という理由だけではない。これがいわゆる、“天が二物や三物を与えた”とやらか。


 正直、羨ましいな……。


 私は持たざる者に分類される。

 私の強さは、これまでの人生の……時間の積み重ねと、継承(百パーセントではないが、それの積み重ね)によるものだ。

 頂に手を掛けうるショートカット持ちの状態から人生をスタートさせられるようになったのは、実は最近の話だったりする。


「さて、どうだ? 使えそうか?」

「うーーん……難しい……。……こう?」


 王女が、霊のいる草むらの方に手のひらを向け、霊力の塊を射出した。

 射出された霊力の塊は、草むらに隠れていた霊を一体、消し飛ばした。

 

 …………なるほど、要修行案件だな。少し驚いた。


 改良点は多々あるが……才能の原石としては超一級だ。不純物が少ない原石。

 実に面白い。


 だが、今の霊力の爆発に反応し、周囲の霊たちが集まって来たようだ。


「……うん、そう。ま、これを魔力同様にまで扱えるようになると、戦術の幅が大きく広がる」

「たとえば?」

「霊力は魔力や気と反発せず、むしろ強化する。例えば、ただの〈斬撃スラッシュ〉が……こうなる」


 私は剣に〈斬撃スラッシュ〉の魔法を付与、そして霊力を重ねて付与した。


 そして、その剣を大きく横に振るった。


 飛んで行った斬撃は、普通の〈斬撃スラッシュ〉よりも鋭く、速かった。

 だがやはり、気を組み込んだ〈ワン〉には劣る。

 上昇幅は気の方が上手か。しょうがない。気はリスクがあるからな。


 斬撃は軌跡上にいたすべての霊を消滅させた。


「あとは練習台にするといい。安心しろ、身の安全は保障する。好きにやるといい」

「うん。ありがとう、レスク」


 さて、王女の才能はどこまで開くか……楽しみだ。



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