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第113話  ウェルダル肝試し大会

 そして、夜。


 今日は都市ウェルダル総出での大肝試し大会だ。

 私と王女、アルグレットは驚かされる側だが、会長はウーゼンティシス家の令嬢として、驚かす側だ。


 少し気を張れば、どこに誰がいるのか、手を取るようにわかる。


 肝試しを楽しむには……気を緩めなければならなくなる。

 しかし……もうすでに、呼吸をするかのように魔力や気を感知する癖がついてしまっている。


 …………まあ、気を抜くんだが。


 気付いても口外しなければ、それは気づいていないのと一緒だ。きっと。

 少なくとも、私は驚きはしないだろうが……それでいい。

 王女とアルグレットが驚いてくれればな……。


 特にアルグレットだ。

 彼女は心の奥底に不安を抱えているようだ。悪魔だとバレたらまずいからな。

 街中だと、怯えるようにして人目を気にしていることからもそれが伺える。




 ウェルダル大肝試し大会は、都市ウェルダル全域(敷地内を除く)で行われる肝試し大会だ。

 主催はウーゼンティシス家。そして、ウェルダルの役員たち数名。


 総勢わずか十数名の手の上で、千人近い数の人間たちが驚かされるわけだ。


「――ウェルダルにお越しの皆さん、こんばんは。ウーゼンティシスです。今宵は恐怖をみなさんにお届けする特別な日です。……では、眠れぬ夜を…………」


 会長の声が街の至る所で響く。

 

 ――そして、ウェルダル中の人工的な光が……消えた。


 とは言え、実際に消えたわけではない。

 すべての家の窓に張られた、遮光性の高いシート。その遮光性が最大に引き上げられた。


 会長の声に反応して……ではなく、時間制限付きのマジックアイテムだったという話だ。


 おそらくこの街には、すべての家の窓に張る義務があるのだろう。

 おそらく、普段は遮光性ゼロの透明なシートなのだろう。


 もしかしたら、義務以前に、建設の段階で張られているのかもな。

 店にこのようなシートは売っていなかったし、毎年売る、配るなどしていたら、必ずどこかで取り零す。

 役員が一軒一軒、丁寧に確認を取れば、ミスは防げるが……手間も人員も時間もないだろう。


「……レスク、マジックアイテムのことなんか考えてないで、行くよ?」

「ああ、そうだな……。さて、どこから回る?」


 この大肝試し大会は、ウェルダルの役員と関係者が指定のポイントで待機、住民や観光客を驚かす。

 だが、指定のポイントというのは、私たちには知らされない。だから、いつどこでお化けが出てくるのかわからない。

 おまけに、時間によって変えられるだろう。


「ああ、王女、アルグレット。お前たちも気を抜いておけよ。でないと、肝試しも楽しめないだろう? ……ああ、やっていたか」


 気を抜いている人間というのは、気を張っている人間よりもわかりにくいものだ。

 なまじ戦闘に長けた人間が気を抜いている瞬間は行動に現れる。その点で言えば、気を張っている人間よりもわかりやすい。


 だが、気配だけでそれを感知するのは難しい。

 感知できるのであれば……そいつは気配という、戦闘ジャンルにおけるある種の頂きに手を掛けた者。


 私には六千年という膨大な研鑽がある。

 気配の探知というのは感覚に近い部分があり、それらの経験値は僅かなりとも受け継がれるのだ。

 つまり、そういうことだ。


「へえ、そういうところまでわかるのね?」

「まあな。まあでも、経験さえ積めば、誰にでもできることだ」

「……私にもできる?」

「ああ、できるさ」

「……教えてくれる?」

「ああ。……相手の気配を探り続けていればいずれな。……時と場所は選べよ?」


 本当は今すぐにも王女の持つ、才能の大輪を開花させてやりたいところだが……私にはやるべきことがある。

 おまけにこれは時間の問題だ。


 私のやるべきことは、まず、リスガイの貴族たちの評価を得ること。

 これは王家や貴族連中の出す問題を解決すればいい。


 この夏休み期間中、何かしらの難題な依頼を出してくる。

 アドベンチャラーとしての活動実績でも問題ないだろうがな。


 貴族あいつらの見ている問題は、私が王国の敵に回るか回らないか、だ。


「……レスク、あの会議での話を勘違いしてる?」

「勘違い?」

「貴族や王家が無理難題を依頼すると思っていたでしょう?」

「ああ……そうだが……」


 今回の依頼がいい例だろう?

 まあ、神が出てくるとは思いもしなかったが……。元はエルゲレンの討伐だった。

 エルゲレンも伝承の存在だったのはともかく。


「今回はただの、AAランクアドベンチャラー、レスク・エヴァンテールに向けた依頼。貴族見習いエヴァンテールに向けた挑戦じゃない」

「貴族たちは私の、依頼の達成率を見るんじゃ……」

「貴族たちはレスクが敵か味方かを見定めるだけ。強さは関係ない」

「…………まじか」


 となると、私の今までの考えは杞憂だった、と……。

 確かに、言われてみれば…………。考えすぎかぁ。


「わかったでしょ?」

「……ああ」

「二人とも、行くわよ。もう、人がいなくなってる」

「――いや、ここがポイントだ」

「――ここがポイント」


 周囲に人の気配が……ではない。

 物音はしない。


「どういうこと……? 気を抜くんじゃなかったの?」

「ああ、ちょっと懸念があって、一部、気は抜かなかったんだが……大当たりだったな」


 大当たり……。

 しかも、大当たりが二つ!

 ハハッ!! 大収穫だ!!







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