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第111話  私が救った海

「「海だーーッ!!」」


 ウェルダル海水浴場は、今日も大賑わいである。





 ウェルダルの、謎の巨大魔獣による海荒れ事件の解決から三日。

 事件が解決するや否や、観光客が待ってましたとばかりに押しかけ、ウェルダルの役人たちは大忙しにしている。

 ホテルも全室満室。予約待ちでいっぱいだ。


 解決に時間がかかりすぎたのは、まあ、申し訳ないと思わなくもない。

 ただ、そのことで文句を言われたら……迷わず殴る。命を懸けて、実際、死にかけたわけだしな。

 私だって最善を尽くした。


 海を荒らしていたのは、伝承にも記されている海龍エルゲレン。

 海神シーミンターネスの使い魔だとかなんとか。

 強かった。まず間違いなく、最低でもBランク相当。

 海という環境を考慮するとAランク。


 おまけに、強化されており、私が戦ったときにはAランクオーバー……AAランクにも及んでいたかもしれない。

 実力はAランク弱かな。AAというのは、あくまで環境を考慮した結果だ。


 そして、それを影で操っていたのは……海の荒神、デゼルグイエット。

 AAランク級の案件であり、なおかつ、あいつの神具と神力は厄介極まりなかった。

 ダメージ吸収、代償の代行の神具。


 そして、第三のエネルギー。

 魔力や気とも反発せず、むしろ強化する神力。


 アルティナが神力に目覚めていたおかげで、ある程度は太刀打ちできたが……如何せん、量が少なすぎた。


 実際に、先ほども言った通り、私は死にかけた。


 まあ、デゼルが捕らえていた悪魔アルグレットのおかげで一命を取り留めたわけだが。

 相討ちとしてデゼルも戦闘不能状態に陥ったし、それでアルグレットの拘束が解けたらしい。


 完全に想定外の出来事だったが、結果的に幸いだった。

 アルグレットがいなければ今頃きっと、海の藻屑だっただろうな。意識もないうちに溺死していただろう。


 おまけに、アルグレットはあのディヴィアルの妹だった。

 ディヴィアルは死んだとばかり思っていたが、その実は、私の一撃がトリガーとなり、魔界へ帰還していたらしい。

 これもまた、彼女が私に恩を感じている一因だ。私としてはたまったものではない事実なのだがな。


 数百年、こちらの世界に捕らわれていた兄の解放。

 捕らわれていた自身の解放。

 感謝されるわけだ。




 だが、突如現れた海神シーミンターネスの


 デゼルの本体であるネックレスと神具を海に返せ、との要求だった。

 当時の私は、魔力も気も神力も、体力すらも枯渇していた。


 まあ、後で知ったことだが……そのとき、シーミンターネスは私に手出しできなかった。

 思い描いたシーミンターネスの強さに、私は逃げの一手を取った。


 結果、私はデゼルを解放することとなり、戦利品はゼロ。

 強いて言えば、シーミンターネスとの良好な関係の一歩。


 召喚主はデゼルのため、アルグレットは時間切れを待たない限り、魔界へは帰れない。

 こうなったのは私のせいでもあるため、アルグレットの身の安全を私が保証することとなった。

 悪魔というのは興味深いし、バレなければ問題ない。

 悪魔への評価は悪いからなぁ……。


 デゼルとの戦闘に入った際に、一緒に任務に当たっていた会長と王女は、海岸に避難させていた。

 私の〈分身体ドッペルゲンガー〉が足止めをしていた。


 まあ、私とデゼルの戦いの余波で大津波がウェルダルを襲ったらしく、それを食い止めるので力を使い切ったようだ。


 私が戻ったら、かろうじて回復したばかりの二人に怒らた。

 一緒に戻ったアルグレットを見た王女の説教はなぜかヒートアップしたし。


 まあ、ヒートアップしたせいか、説教の時間は逆に短くなったから良かったが……機嫌を直すのに時間がかかりそうだ。




 …………で、私は海に来ている。


 この三日間で疲労困憊の体を回復させ、ウーゼンティシス候に報告していた。

 アルグレットに関しては、ウーゼンティシス候と会長、王女の三人には話した。

 休憩のために、アルグレットを隠せる余裕など、私にはなかった。


 加えて、彼女はこちらの常識を、魔界で得た知識程度しか知らない。

 魔界にどれだけこちらの常識が伝わっているのかは不明。

 私の監視下に置かないと……ってなったんだが…………私の状態が状態だったため、応援を仰がなければいけなかった。


 ウーゼンティシス候には……バレたから話さざるを得なかった。

 事情が事情だった。その辺りを、ウーゼンティシス候は理解してくれた。


 やはり、悪魔に対して良い印象はなかったようだった。

 私の監視下にあるのなら……という理由で、渋々容認してくれた形だ。


 だが、アルグレットの存在は口外しないと約束してくれた。


 だがやはり、関わるのは彼にとってもリスクが大きいらしく、それ以上のことは保障してくれなかった。

 あくまで「知らなかった」という体を取るようだ。


 それで十分。めちゃくちゃありがたい。




「レスク、泳がないの?」


 浜辺のパラソルの陰の下で物思いに耽っていた私のもとに、水着に身を包んだ王女と会長、アルグレットの三人がやって来た。

 アルグレットはすでに二人と打ち解け、もう仲良しだ。


「泳ぐさ。……待っていた方がいいかと思ってな」


 着替えるから先に行っててと言われていたのだ。

 なら、待っているのが筋というものだろう。


「それより……どうお? ウーゼンティシス専用、シークレットビーチは?」

「イイですね。静かですし、波も穏やか。波の流れを見ても、人が迷い込んでくることはなさそうですしね」

「でしょでしょ! それじゃ……みんなで泳いでこの夏を楽しみましょう!!」




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