第105話 デゼルグイエットの一撃
アルティナの作り出した〈熾天使の炎〉を剣に纏わせた。
だが、避けられた。
くっ…………今まで私の攻撃を黙って受け入れていたのは、この一撃を無駄にさせるためか!
一撃。
そう、たったの一撃。
されど一撃。
すぐにUターンして一撃を入れ直さな……
――いや、見えた。
再びデゼルに一撃を加えんとUターンした瞬間、デゼルの腹の辺りに魔力、気、神力の塊が見えた。
あそこに一撃を加えれば、もしかして……
物は試しだ。
私は黄金の炎を纏う剣を構え、デゼルの腹目掛けて突進した。
あそこに魔力、気、神力の三つを注ぎ込み、構築を破壊すれば、再び練り上げるのに時間を必要とするだろう。
そうなれば、再び攻撃のチャンスが回ってくる。
練り上げすぎたせいで私の眼に映ってしまったようだな。
――ビリッ
剣がローブを貫き、剣を伝った黄金の炎が、デゼルの体を包みこむ。
燃えるローブが、燃える端から闇に修復されていく。光と闇がせめぎ合い、喰らい合い……。
デゼルの腹にあるエネルギーの塊に、三種のエネルギーを流し込む。
このまま内部から崩壊させてやる!
『――我、デゼルグイエットが命じる』
――――!!
流し込んだエネルギーが逆に吸われた……だと?
まさか、ここまで読まれて!?
これは……非常にまずいッ。
私のエネルギー……というか、他人のエネルギーというのは反発し合うものだ。
つまり、私のエネルギーを内部にため込んだデゼルのエネルギーの塊は……最凶最悪のエネルギー爆弾だ。
純粋なエネルギーだし、私の内部のエネルギーも吹き飛ばされてしまうかもしれない。
だが、デゼルは私のエネルギーとデゼルのエネルギーが混ざらないよう、エネルギーを強固に練っているのだろう。
だが、その強固な練りを解かれたら……。
そうなると最悪だ。
どうすればいい。
考えろ。考えるんだ。
転移で逃げようにも、竜巻が周囲にあって、転移できる範囲がかなり限られてくるし、おまけにその範囲は爆発の範囲内だ。
一度、ウェルダルまで撤退……いや、デゼルが私のあとを追ってウェルダルに来ないとも限らない。
そうなると……最悪だ。
あいつの標的はあくまでウーゼンティシス家。
なぜ狙うのか、なぜ恨みを抱いているのかはわからない。
聞いておけばよかった。いや、聞いたところで答えてくれるか……。
待て、今はこんな無駄なことを考えている場合じゃ……
『力を拒み、生命を拒み、物質を拒め』
どうするのがいい?
発動と同時にウェルダルに撤退、即座に〈転移〉でデゼルの気配を座標に戻ってくれば……。
読まれている可能性……ないこともない。
だが、今はそれどころじゃない。命第一。
死んでも次がある? バカバカしい。
次はこことは違う世界だ。それは死と同義。
死ぬつもりはない。これっぽちもな!
そうだ、生き残るために考えないと。
詠唱を解析し、効果を先読みしよう。
詠唱では三度、『拒む』と口にしていた。
一定範囲内に存在する対象を……吹き飛ばす、もしくは消滅させるもの。
まず、『力を拒み』。
おそらく、力=エネルギー。
魔力、霊力、神力。気は別名、生命力。そう、力だ。
物質的な力は筋肉だが……筋肉を拒む? 仮にそうだとしたら、筋力低下の弱体化か。
次に、『命を拒み』。
これは文字通りだろう。生命体を拒む。
術者本人であるデゼルは別か? さすがにそうだよな。
でないと、デゼルは腹から木端微塵だ。それはそれで結果オーライなんだがな。
最後に『物質を拒め』。
これは本当に、それ以外に意味なんてない。
あらゆる物質を拒む。
私の体も物質だし、海だって物質だ。空気も、何もかも……。
物質から除外されるのは、思いつく限りではお化けぐらいか? 魔法とかのエネルギーもそうか。
だがこれらは、先の二つによって除外済み。
これらの文面から推測されるこの魔法の威力、範囲は……とにかくやばい。
最も近いので言えば、〈禁忌大爆発〉か?
だが、こうも簡単に超級魔法の域に達してしまっては、超級魔法の存在意義に関わる。
もう少し威力は低いと見積もって…………いや、何かしらの制限が掛かっているとすれば……。
何かしらの制約を厳しくして、その代価として威力を底上げ……?
長い魔法詠唱は制約に入るのだろうか。
おそらくだが、私は入ると見ている。
詠唱後に魔法名を口にしているしな。
反魔法は作れない。
反魔法対策なのか、それともそういうものなのか……。デゼルは魔力、気、神力を純粋なエネルギーとして、そのまま放出するつもりのようだ。
対抗するには、私も同等のエネルギーを放出して相殺するしかない。
……が、そんな余裕はまるでない。そもそも、残っていない。
攻撃が当たる瞬間に、アルティナとの〈合体〉を解除すれば……いや、余計にダメージを負ってしまう可能性がある。
その逆ならともかく。
つまり、回避するには攻撃範囲からの脱出――〈転移〉しかない。
しかし、それは避けたい。できない。
私が転移しても、転移先にデゼルも転移してくる。逃れられない。
デゼルのすぐそばに……くっそ!
エネルギーが空間を乱していて、デゼルの側に転移できない!
攻撃が始まった瞬間に対策するしかない。
必ず穴はあるはずだ。
『――〈生命拒絶の部屋〉』
途端、デゼルを中心に三重の衝撃波が発生した。
魔力、気、神力の順番だ。
範囲……不明。
威力……衝撃波っぽいし、おそらく防御無視。
魔法の部分は、この防御魔法で防げる。神力も同様に。
気もそうだ。体内防御という形として展開している。
三種のエネルギー攻撃と、三種のエネルギーを使用した防御。
耐えることは…………怪しいな。
予想される効果的に、防御ごと持っていかれそうだ。
――せめて、一矢!
そして、デゼルの攻撃が私に、私の攻撃がデゼルに……それぞれ命中した。