第104話 神力の変換効率
魔力や気……エネルギーを、神力に変換……?
神歴の長いデゼルグイエット(略してデゼル)さん曰く、それは理解不能というか、できないらしい。
神力はそれ以上でもそれ以下でもない。
物質と一緒だな。この世の理そのものと言っても過言ではない。
つまり、アルティナはこの世の理を破ったということになる。
……と言うのが、デゼルの認識だ。
だが、アルティナはいとも簡単にそれを成し遂げた。
……ってことは…………
まあいい。変換できるんなら変換する。それだけだ。重要なのは、できるかできないか。ただそれだけだ。
持久力の塊みたいなこいつが相手なら、神力は少しでもあるに越したことはない。
…………っ
「…………?」
一瞬、眩暈が……。
…………鼻の下に指を当てると、指には血がべっとりと付いていた。
「……? …………魔力が……ッ」
『変換効率、最悪だね……』
アルティナの言う通り、神力を元通りにまで回復させようとしたら……魔力が二割ぐらいにまで減っていた。
これだけになるならともかく、一気に減ったから脳が追い付かなかったらしい。
神力は元の四割ほどにまで回復したが……元が微々たるものだ。すぐになくなる。
変換効率、十パーセントぐらいか? いや、もう少し低いな。
正直、最悪レベルだ。
アルティナと〈合体〉して魔力量は増えたとはいえ、アルティナの魔力量は私からしたら微々たるもの。
大して増えていない。
気はそこそこ増えたけどな。アルティナが魔法戦闘型でなかったのが裏目に出たか。
仕方ない。速攻で決着を付けるしかない、か……。
となると、やはり接近戦か。
気を主体にして攻撃、防御……攻撃するときに限定して神力を放出すればいけるか?
なんでもやってみるしか手はない。……って言う余裕もない。
傷は負い次第、〈回復〉で治そう。追いつかないかもしれないが、ないよりマシか。
魔力も、まだ二割残ってるんだ。
下手な魔法さえ使わなければ、十分戦える。補助に回そう。
「――行こう、アルティナ」
『――行こう、レスク』
私は剣を構え、〈閃撃〉を発動させた。
二重の防護魔法は維持。〈雷神の法衣〉の神力も維持。
そして、デゼルの横を通り、神力を加えた斬撃を加える。
回数に余裕はないため、ダメージ量を計算、実験している時間も暇も……魔力さえもない!
そして……
――ドボンッ!
視界が一気に無数の白に覆われる。
デゼルのうめき声が聞こえたような聞こえなかったような。
私は即座に方向転換……海中で大きくカーブし、私の潜った辺り目掛け、再び猛スピードで突き進んだ。
なぜ、自分の潜った位置がわかるのかと言うと、そこだけ大量の泡が漂っているからだ。
私の進んだ軌跡全体に言える。この泡が海上から見える前に浮上、攻撃しなければならない。
時間との勝負だ。
▼
潜って浮上、攻撃、空中で方向転換し、攻撃、再び潜る……というのを繰り返した結果、海面は白い泡で覆い尽くされた。
〈雷神の法衣〉による海水の電気分解も影響しているのかもしれないな。
デゼルの〈神罰〉のせいで海は大荒れだが、一瞬で潜って浮上してしまえば、関係ない。
竜巻は避けれるし、そもそも、デゼル本人の周囲に竜巻は生じない。
デゼルの数珠もあれから三つ割れ、残りは二つのみとなった。
デゼルは私の攻撃を黙って受け続けてはいるが……体内で緻密に魔力と気、神力を練り上げているのが見える。
その緻密具合から推測されるその技の威力・範囲は、おそらく、超級魔法〈禁忌大爆発〉級、もしくはそれ以上。
二重の防護魔法を、神力、気、このコートの特殊効果の三つで耐久力を底上げしているとは言え、受ければ無事ではすまない威力だろう。
ただ、妨害しようにも完全に受けの姿勢を取っているため、どんな攻撃をしても妨害はできそうもない。
魔力も神力も余裕がまったくないし、気では難しいし。
こいつには体内器官もなさそうだし、〈閃撃〉の速度で突進しても脳震盪は起こさないだろう。
中身は闇だし。
どこかに核があるのか、それとも、数珠と同じように、一定ダメージを超えたら死ぬのか……。
それに、どれが体なのかもわからない。
闇はそもそも傷が見えないし、ローブは破れても闇によって即座に治る。
ローブが本体のようにも見える。
ローブは燃えるようだが、やはり闇に修復されるしな。
見方を変えれば、闇がダメージを吸収しているとも取れる。
となると、海の邪神デゼルグイエット。その正体は一枚のローブ……という衝撃の事実が明らかになるわけだが。
数珠はあくまで神具。デゼルではない。
『我らエヴィデンスの血盟が命じる。煌めく炎よ。その黄金の輝を以て、我が前の敵を焼き滅ぼせ。――〈熾天使の炎〉』
アルティナが私の口で魔法を詠唱する。
神力を使った魔法か。残った神力のほとんどを込めたのか。
アルティナ、なぜ使えるんだ?
まあいい。後で聞くとしよう。
剣に黄金の炎が付与された。
神力と混ざり合った炎か……。
元の刀身が赤かったのもあって、金色がよく映える。
……美しいな。惚れ惚れする。
このダメージでデゼルの策略を妨害す…………なに?