第100話 りんぐは海の上で
……謎の数珠。
デゼルのセリフから、数珠一個がこいつのライフ……命だと推測が立つ。
破壊しようと試みたが、不可思議なナニカが数珠を守っていた。
おそらく、物理エネルギーでの破壊は不可能。
そのナニカが何のエネルギーを糧に生み出されているのかは……わからない。
いやそもそも、エネルギーによる保護なのかも不明。
おそらく、原子のような、これ以上追及できない物なのかもしれない。蹴ってみて、そう感じた。
……どうする。
ここで一気に、〈禁忌大爆発〉でここら一帯を焼き払ってしまうか?
だが、あの数珠を破壊できなければ意味がない。
いや、そもそもあの数珠がライフであるということ自体がブラフである可能性。
私は神剣アルティナを手にし、デゼルを観察した。
……会長たちは分身体が足止めしてくれている。
でないと、巻き込んでしまう。
『どうした、来ないのか? ――〈天雷〉』
今ここに、私は敵と対峙しており、味方は周囲にいない。
おまけに海の上。ここでいくら暴れても、少なくとも人に危害を加えることはない。
海の幸には悪いが、野生動物はこういう事には鼻が利く。きっと、とうに逃げおおせているはずだ。
私が〈天雷〉を喰らった瞬間、腰の鈴が鳴った。
その音で〈閃撃〉を発動させ、雷の中を突き進んだ。ダメージなど、覚悟の上だ。
そして黒雲の上に到着した私は、デゼルの真上に移動、急降下した。
〈閃撃〉の勢いに乗せた踵落とし。
体に〈閃撃〉を掛け、右足の膝から下に、気をふんだんに張り巡らせた。
私史上、最大威力の踵落としだ。
落下の際に回転を加えることで、威力は爆上がりだ。
デゼルは反応しきれず、脳天に踵落としを食らい…………大きな水柱を立てて、海中に消えて行った。
私はすかさず〈隕石〉を打ち込む。
その後すぐに〈天雷〉を大量に落とした。
海……海水……塩化ナトリウム水溶液は電気を通しやすい。
雷の日に海に入ってはいけないというのは、これが理由だ。遠くに落ちても感電するからな。
極めつけに波長六つの雷魔法〈天の裁き〉を加えた。
先ほどの〈隕石〉と、〈天雷〉複数回のおかげで、デゼルの正確な位置がわかっていたから放つことができた。
『くっ……ああ……久しぶりにあちらの世界に行きかけたぞ』
そう言いながら海から出てきたデゼルの数珠は、さっきのと合わせて三つ、罅が入っていた。
デゼルは律義に、私と同じ高さまで昇って来た。
しかし、まだライフが残っているであろうにも関わらず、死にかけた?
となると……数珠の効果は命の代わりではなく……一定ダメージの吸収?
確かに、死なない程度の攻撃を加えたことはないな、まだ。
やってみよう。
「――〈点〉」
私は〈点〉をデゼルの胸目掛けて放つ。
デゼルは寸でで体を捻って躱すが、そこに更に〈点〉の追撃を繰り返す。
合計二十もの〈点〉は、デゼルの胸、肩、頭頂部、脇腹を幾度か貫いた。
同じ箇所を貫いたり、逃げるのを阻止するためにあえて外したりしたからな。
しかし、ローブの中はどこも漆黒の闇だった。
そして、すぐに闇が傷を塞ぐ。
……そういやそうだった。
この謎の闇。正体は、デゼルグイエット自身だろう。
気を感じるし。闇……というより、漆黒の靄、霧と言うべきか。小さな粒子の集合体だ。
――だからこそ、ダメージを与える方法がわからない。
物理ダメージは……無理だろうな。
霧の中で剣を振るっても、霧は晴れない。
今、気と魔力の複合魔法で攻撃したが……ダメージが入ったのかどうかも謎だ。
『……私にどうしたらダメージが入るのかどうかを模索しているようだが、ダメージ自体は少なからず入っているぞ。ただ、私の体の特性上、かなり少ないがな』
だが、そんなチートが……こいつ、一応神なんだったな。
ならチートもしょうがない……。
が、ここで負けるわけにはいかない。
こいつ……デゼルはなぜかウーゼンティシスに対し、並々ならぬ敵意を抱いている。
ここで私が負ければ、きっと、すぐにでも会長と王女の魔力を辿り、ウェルダルを血の海にするだろう。海神だけに。
だが、数珠は今日だけで、最低でも二つは破壊している。
つまり、一定威力以下の攻撃は極端に受けるダメージを減らすが、一定以上の威力の攻撃は普通に受ける……か?
受けたダメージは一定量なら数珠が吸収する。いや、一定の割合か?
……わからない。確かめようがない。
だが、〈一〉や〈点〉は高威力にも関わらず、大してダメージが入っていなかったように見えた。
となると威力の基準は……波長の数か?
気は波長にカウントしないわけだし。
〈一〉は〈斬撃〉に気を加えたもの。
〈点〉は〈突〉に気を加えたもの。
どちらの基の魔法も、波長一つの魔法。低火力だ。
しかし、これらは推測に推測……仮説に仮説を重ねた結果でしかない。
ただ、これが是である可能性は……それなりに高いと見ていい。
更に推測を重ねるなら、あの数珠はきっと神器……神剣級のマジックアイテムだろう。
だってこいつ、神だし。
神だしってだけで説得力が増すのって、なんなんだろうな。
過激な宗教団体が生まれるのも無理がない。
『いくら考えたところで――』
『――レスク、僕を忘れてないかい?』