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 妹に喝を入れられ、元気を取り戻したエルフリートはエルフリートの姿でロスヴィータと出かけていた。今日はロスヴィータと同じようなラフな姿である。


「フェーデ、今日は一緒に見てほしいものがあって。忙しいのに付き合ってもらって悪いな」

「いや、構わないよ。ロスの為ならこれくらい」


 ロスヴィータからの呼び出しには驚いたが、聞いてみれば何の事はない。エルフリートのセンスで助けてほしいという話だった。王位継承権を持つ者のみの集まりに「忙しいから」という理由をつけてここ数年準正装で参加していたのだが、いい加減普通の姿をして参加しろと小言を言われてしまったらしい。

 何ともロスヴィータらしい話である。普通の姿、というからには女性装という事だろうと考えたロスヴィータは、エルフリートに助けを求める事にしたのだった。

 ロスヴィータに似合うもの、何が良いだろうか。エルフリートはロスヴィータの金色の尻尾をやんわりと掴んだ。

 自然と二人の足が止まる。


「うん?」

「ロスの髪、綺麗だなと思って。せっかくだから、この髪の毛が映えるドレスにしないかい?」


 エルフリートがそう言うと、ロスヴィータはきょとんとした。まんまるとした碧眼がエルフリートに向けられている。

 太陽光で煌めいて、目の中に森林が広がっていた。


「ただ伸ばしているだけなのだが……綺麗、か?」

「綺麗だよ」


 彼女は髪の毛にこだわりがないらしい。不思議そうに前髪をつまみ、それを見つめるロスヴィータは、どうやらエルフリートの言葉に納得いっていないように見える。

 エルフリートはそんな彼女に向けて優しく微笑んだ。


「太陽の光みたいな髪だと、私は思うよ」

「そ、そうか……」


 ロスヴィータはふい、と顔を逸らして歩き出す。目当ての店はもう目の前だった。早足で彼女に追いつき、こっそりとその顔を覗き見ると、頬が赤くなっている。あ、照れたんだ。可愛いな。

 ロスヴィータの珍しい姿に、エルフリートはこっそりと口元をゆるめるのだった。



 ロスヴィータの髪型アレンジを考えながら、彼女に似合いそうな意匠を探す。それはエルフリートにとって難しいものではなかった。確かに、ロスヴィータは男性と間違えそうな外見をしている。だが、それはロスヴィータ自身の持つ芯の強さが表情に滲み出ている部分も多い。

 顔の作り自体は中性的なのだ。決して女性的な顔立ちとは言えないものの、ブライスのような男性のごつさはない――それはエルフリートにも言える事だが。

 どちらとも言えない顔立ちをしているからこそ、異性装が似合ってしまうのかもしれない。


「ロスは……そうだね、やっぱりこういうシンプルなデザインが良いと思う」

「そうか?」

「もう少し甘さのあるデザインも、化粧次第ではありだけれど……それだと、君らしさがなくなってしまう」


 エルフリートは何年か前の仮面舞踏会を思い出していた。ロスヴィータはタイトなドレスに身を纏い、炎の女王として君臨していた。あの時のような煌びやかさは必要ないだろう。

 目立つ事が目的ではないのだから、むしろ今回は主張しすぎない、おとなしめのものの方が良いはずだ。


「炎の女王様になりたいのなら、そういうのを探すけれど」

「ははは、懐かしい話を」

「集まりで目立ちたいのなら」

「いや、普通で結構。私は存在自体が目立つからな」


 エルフリートとロスヴィータはくすくすと笑い合う。エルフリートは柔らかな雰囲気を醸し出すロスヴィータに、おや、と思いながらドレスを探す。今回は、レース生地でもいけるかもしれない。シンプルなハイネックのドレスはどうだろうか。イリュージョンネックにして、ブイ字に大きく胸の開いた意匠、シルエットはやはりマーメイド。マーメイドの裾はドレープがしっかりときくように布多めにすれば、シンプルだけれど華やかな感じになるだろう。

 エルフリートはワクワクしながらロスヴィータのドレスを探す。確か、こっちのほうに……。


 エルフリートはドレスをかき分け、目的のデザインを探す。似たようなデザインを見つける事ができれば、あとは希望を伝えて作ってもらうだけである。

 今回はおとなしくしたいって事だから、紺色とかの濃い青が良いだろう。そんな事を思いながらハンガーを動かした。

 ――そして。


「あった。これはどうかな?」

「ほう……?」


 エルフリートが見つけたのは、彼が想像している通りの意匠のドレスだった。こちらは胸元の意匠が思っていたものとは違うが、雰囲気としてはおおむね問題ないように思える。


「これの、硬派な胸元を大胆にブイ字に変えたものだ良いかなと思う」

「そんなに露出して大丈夫か?」

「ロスは綺麗に筋肉がついているから大丈夫。むしろその綺麗な肉体を見せつけ――なくて良いけれど、その綺麗なシルエットを見せないのはもったいない」

「そうか……」


 何となく不安そうにするロスヴィータに、エルフリートは微笑む。


「どうせレースで隠れるのだから、シルエットだけ気にすれば良いよ」

「なるほど」


 ロスヴィータの気に入らない意匠だろうか。エルフリートは緊張しながらもスタッフに試着を希望するのだった。

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