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メアリーと話している内に囲まれてしまったエルフリートとロスヴィータは、彼らの対応をしながらちらちらと卒業生を見る。彼らは彼らで他の人たちに捕まっており、解放される気配はない。どちらの客が途切れるのが先か。エルフリートはそんな事を思いながら生徒たちの対応をする。
「ボールドウィン副団長、今日のドレスも素敵ですね! 以前お見かけした時――」
「マディソン団長、準正装かっこいいです。記念祭の時に遠くから拝見した時にも思ったのですが――」
「今身長どれくらいですか!?」
「今度、カリガート領で使った大型魔法についての解説をお願いしたいです!」
「どうやったらマッチョにならずに大剣振り回せるようになりますか?」
「ドレスのセンス、教えてほしいです!」
騎士に関係のない質問まで飛び交っている。エルフリートとロスヴィータは一つ一つ丁寧に答え、一問一答だけで他の人に場所を譲るように伝えていく。あんまり混雑していると、他の人の迷惑になるかもなぁ。
ホールの端にじりじりと移動しながら生徒たちの塊を小さくしていく。エルフリートたちの身長は決して低くはないが、これだけの人だかりとなると周囲が見えなくなってくる。
人気がないよりは遥かにましだと思うんだけど、これはちょっと……やっぱり、迷惑行為では!?
「お二人とも別々に婚約者がいますが、それって偽装なんですか!?」
言い得て妙だけど、今それ全然関係ないよね!?
「偽装じゃないよぉー」
「とりあえず、他の人の迷惑になるから騎士学校の授業関連の質問だけにしてくれるか?」
エルフリートの返事にがくりと肩を落とす数人。続いてロスヴィータの余分な質問はもう受け付けないの宣言に肩を落とす生徒が大多数。いや、うん……そっかぁ。
脱落者の多さにエルフリートは、一瞬彼らの騎士になりたい気持ちは何なのかと不安になる。ただの野次馬根性だけ……じゃないよね? 不安に苛まれていると、一人の生徒がおずおずと手を挙げた。
「魔法を使いながら剣を扱う。とても難しいです。コツはありますか?」
おおっ、まともな質問っ! エルフリートは元気よく答えた。
「どっちも無意識に使えるまで鍛錬あるのみ! まずは魔法だけ、剣だけで咄嗟の反応ができるように頑張ってみて。そうしたら、誰かと剣で模擬戦させてもらって、その時に魔法を使わせてもらえば良いよ。
できれば、同級生じゃなくて教官とか現役騎士に稽古つけてもらって……あ、待って」
エルフリートは回答している途中で気がついた。これって自分が指導役をすると言えば解決する案件じゃない? そう考えた瞬間、アイマルの姿が頭の中に浮かんできた。
あ、アイマルに頼んでみるのも良いかも。今なら女性騎士団の指導もしてくれてるし。女性騎士団全員――は無理だけど、半分くらい引っ張ってきたら良い感じ!
「騎士団でも魔法の使える騎士を増やしたいって考えているところだから、何か企画できないか上に上げてみるね。だから、最初から両方使う事は考えずに、別々に鍛錬をして待っててくれるかしら?」
エルフリートは真面目な少年に向けて微笑んだ。彼はエルフリートの笑みをぼうっと眺め、隣にいた同級生と思われる少年に肩を叩かれて我に返っていた。可愛いところあるじゃない。
「決して、自分たちだけで勝手に剣と魔法両方を使った模擬戦闘はしちゃだめだからね」
「はいっ!」
「良いお返事。ちゃんと私たちも、よりよい学校にできるように頑張るから」
少年は、今度はぱあっと顔を輝かせて大きく頷いた。エルフリートの隣からロスヴィータが腕を伸ばし、少年の頭をガシガシと撫でる。少々乱暴ではあるが、ロスヴィータに撫でてもらえるだなんて羨ましい。エルフリートは少年の事をじいっと見つめた。
「その心意気、楽しみにしている。我々もその気持ちに応えられるようにしていくから、期待していてほしい」
「ありがとうございます!」
エルフリートとロスヴィータの二人に約束を取りつける事に成功した少年は、周囲の生徒たちに囲まれ、そのまま運び去られた。ふふ、ちょっとおもしろかったな。
「フリーデ、そろそろいけそうだ」
「あっ、本当だ。ごめん、みんな。卒業生たちに挨拶しに行って良いかな?」
良いタイミングで卒業生三人組の人だかりが減っている。この隙を見逃さない手はない。お開きの声をかければ、残っていた生徒はそれぞれ頷いてくれる。
「どうぞ」
「足を止めさせてしまってすみませんでした」
「色々答えてくださってありがとうございました!」
「またお願いします! 今度はお姫様みたいなドレスが良いです!」
「お前、要望言う場所じゃないんだぞ」
何かやっぱり変なのが混ざってるみたい。エルフリートは彼らに小さく手を振ってから背を向ける。さぁて、今度こそ卒業生とお話するぞ! ロスヴィータの腕に手を添え、淑女らしく楚々とした足取りでエルフリートは卒業生のもとへと向かうのだった。