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 悩みが尽きぬが工事は進む。それはそうだ。エルフリートの悩みは工事と関係がないのだから。そうしている内に、工事が終わってしまった。

 今は工事の不備がないかの確認作業をしている。点検項目を羅列した用紙を用意していて、その項目に従ってチェックしていくのである。

 エルフリートは柵を担当しているが、その作業ももうすぐ終わりである。本当に工事の終わりが見えてきていた。


「おわ……ったぁ!」


 仲間が作業完了の報告を叫ぶ中、エルフリートも叫んだ。両手をぐっと上に突き出した姿は明らかに解放感にあふれている。

 エルフリートのような姿は別に珍しくはない。他の面々も似たり寄ったりだった。


「お疲れさん」

「あっ、オズモンド」


 ぽん、と軽く肩に手を乗せられたエルフリートは振り返る。エルフリートよりも早く作業を終わらせていたのだろう彼は、手にしていた飲み物の器を差し出してくる。優しい、気が利く! エルフリートはにこやかにお礼を言って受け取った。


「こういう点検、初めてやったんだけど結構大変だね」

「ああ、まあな。でも見るところは決まっているから、面倒なだけで大変ではないだろ」


 感じ方は人それぞれか。エルフリートはうんうん、と頷く。あ、このお茶おいしい。ほんのりと蜂蜜の甘味を感じたエルフリートが頬をゆるませると、オズモンドが目元を優しく細めた。

 へえ、そういう優しい顔もするんだ。いい男じゃん。


「ふふ、オズモンドって普通にしていればモテそうなのにね」

「あ? 俺とブライスを一緒にするなよ。これでも俺には恋人がいるんだからな」

「あ、そうなの!?」


 特殊な職業だから特定の相手を作っていないものだと勝手に思い込んでいた。エルフリートは慌てて謝罪する。


「いや、良い。気にしないでくれ。俺もあんまり公表してないしな」

「そうなの?」

「余計な詮索されたくないし、俺自身が活動中に遭遇した奴から変な事言われてそこから芋づる式に正体が――とかになったらまずいし」

「そりゃそうだね……」


 いないと思われてる方が都合が良い、と更に付け足した男はからからと笑う。


「そちらさんの婚約と似たようなもんだ。ブライスも可哀想にな」

「へっ!?」


 偽装婚約ではあるけど、二人はこのまま結婚しても良いとは言ってくれている。そういえば、二人の仲ってどうなんだろう。どんな行動を取ったかとか、そういうのはお互いに共有しているけれど、考えている事までは共有していない。

 エルフリートはなんと答えれば良いのか迷い、とりあえず視線を泳がせた。


「ブライスの好みがこんなのとは、俺も驚きだったが……まあ、気持ちは分からなくもない」

「どういう事?」


 エルフリートは思わず詰め寄った。オズモンドは引き攣った笑いを浮かべ、周囲を見回した。え、それってどういう動き?

 エルフリートが疑問符を浮かべる中、オズモンドが話し始める。


「容姿はまぁ、普通に可愛いよな。中身はちょっとアレだが。だって、色々こじらせ過ぎだろ。そもそも、ロスヴィータの一挙一動で魔法の幻影を撒き散らしたりしながら気絶したのは有名な話だし。あれを聞かされたらもう……な。

 って事で、恋愛対象にするには難ありだ。だが、こうして話をしてみる分には普通だ。頭の回転が早いから一緒にいて快適だし、同じ時間を過ごすのに不快感はない。

 それに、少し抜けているところは可愛いとは思うな」


 オズモンド、語るじゃん……? くどくどと語り続ける男の言葉に目を白黒とさせながら、彼の言葉を聞き続ける。


「そこまではまぁ良い。ここからが問題だ。フリーデは少し変わり者だろ? まぁ、ざっくりと言えば距離感がおかしい。だから誤解してしまいそうになるところもあるって事だ」


 うん……うん?? オズモンドの語りに追いつけなくなってきた。エルフリートはよく分からず小さく首を傾ける。


「俺にだけ親しいのか、なんて思いそうになる瞬間があるんだ。フリーデは誰にでも同じように振る舞っているだけだろうが、こう、唐突に胸にきゅんと来る」

「えっと、私、何を聞かされているのか分からなくなってきた……」


 エルフリートは思わず口を挟んだ。だが、彼の語りは止まらない。


「男にしか分かんないのか、それとも俺やブライスみたいな男にしか分からないのか。その辺りは分からんが、とにかくフリーデ。お前は突然可愛く見えるんだ。だから、ブライスの気持ちが分からなくもないって事」

「えぇー……?」


 何を言われていたのか、本当に分からない。オズモンドは満足げにしているから、彼は自分の言いたい事を言い切ったんだろうけど。


「フリーデ。お前は可愛い。だから、良からぬ気持になる男の気持ちも分からなくはない。そういう事だ」


 じっと見つめられ、何だか一歩足を後ろに引いてしまいたくなる。えっと……。どうしよう。


「ふぅん? こういう事、言われ慣れてないんだ。もっとレオに言ってもらう事だな。なあ?」

「えっ?」

「……何か、よく分かんないんだけど、どういう状況?」


 いつの間にか近くまでやってきていたレオンハルトが変な顔をして立っている。怒っているとも、困っているとも、何とも言えない顔に、エルフリートとオズモンドは苦笑するしかなかった。

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