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妖精と王子様のへんてこメヌエット(へんてこワルツ5)  作者: 魚野れん
舞台は再びおとぎ話の地へ

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 参考にはなったけど、自分の能力の至らなさを実感させられただけって感じだったかも。エルフリートはこっそりとため息を吐く。

 そんなエルフリートの隣ではレオンハルトが和やかにオズモンドと話をしている。ドニとの話がひと段落して団らんの雰囲気になっていた。

 能天気とまでは思わないが、なかなかに楽しそうだ。


「第七騎士団って、諜報系の騎士もいるのかな?」

「中に入ってからのお楽しみ、ってところだな」


 そういえば、オズモンドなら彼の事を知っていたりするのかな。ロスヴィータが最後に捉えた男性がボルガ国に潜り込ませていた傭兵だったって聞いたけど。

 結局エルフリートは彼の事を確認していない。そんな状況ではオズモンドに聞いたところで教えてはくれないだろう。

 いつか細かい話も聞けたら良いなと思う。あ、でもそうなると騎士団のなかでも上の方にいかないと駄目なのか。オズモンドが引退して、今の情報が使い物にならなくなるくらい古いものになるまで待つかぁ……。

 エルフリートはかなり気の長い事を考えながら、二人の会話に耳を傾ける。


「オズモンドの活動も秘密なんだろ? 秘密が多いって、大変じゃないか?」

「まあ、慣れればそうでもないな。レオンたちだってそうだろう?」


 オズモンドが意味深な流し目を送ってくる。ちょっと! そういうの怖いから! この入れ替わりの事を気づいてるのかどうか、確認したくなっちゃうからっ!

 エルフリートは内心でパニックになりながら、驚いた顔を作り出す。


「何かあったっけ?」

「何かあるかなんて、俺が知るかよ。だいたい、俺は第三者だからな。

 俺が知ってたらむしろ怖すぎだろ」

「そっかぁ」


 本当のところはさておき、口にする気はないらしい。じゃあそういう視線を寄越さないでよね! そんな文句を言うわけにもいかないエルフリートは、オズモンドに向けて曖昧な笑みで頷いた。


「慣れって言うけど、隠し事のコツってあるの?」


 あっ、ナイスフォロー。会話を引き戻そうとするレオンハルトに心の中で拍手を送る。


「隠し事は、隠しすぎない事。それくらいだろ」

「なんか難しい事言ってるー」


 オズモンドが言いたい事は何となく分かる。だが、抽象的すぎる。


「隠し事をする為に嘘を重ねすぎると逆に違和感を覚えさせてしまう……そういう事ね?」

「さっすが! ご明察の通りだ」


 黙々と菓子を食べ続けていたマロリーが唐突に口を開く。彼女は大袈裟な反応を示すオズモンドを確かめると、すぐに菓子へと視線を戻した。

 あんまりこの会話に興味はないみたい。まあ、無理やり巻き込んじゃったようなものだから……。


「ま、慣れれば難しい事考えずにぽんぽん言葉が出てくるようになるもんだ。自然な所作もな」


 確かに、エルフリートだって女性としての振る舞いはほとんど意識をせずとも自然にできている。昔は粗相をしないようにする為に気を配っていたけど、今はぜんっぜんそんな事はないもんね。

 逆に()()()()()()として過ごす時の方が気を遣うくらい。


 オズモンドの言葉に、分かるなあと頷いてしまいそうになる。危ない危ない、分かっていたらダメなやつ! 分かんないなーって感じで「へぇ〜」ってしてないと。

 エルフリートは自然な表情を作ろうとして失敗した。


「……フリーデには難しかったか」

「えへへ……」


 それってどっちの意味!? さっきからひやひやさせられっぱなしだよぉ! エルフリートはぎこちない笑みでやり過ごす。

 悔しい。ペースを乱されたままなの、悔しい。ドニの話を聞いて落ち込みかけていたというのに、今はオズモンドの意味深な言葉の数々に振り回されてそれどころではなくなってしまっている。その事も悔しさを増長させる。

 いつか、驚かせてやるんだから……!

 エルフリートはそんなどうでもいい決意を心の中で叫ぶのだった。




 謎の時間を過ごして気分転換をしたエルフリートは、ドニのアドバイスについて自分なりに整理していた。エルフリートの中で、一番印象に残ったのは、組織の運営に関する考え方。ドニの語った内容は領の運営と似ていたのだ。それならば、今までの勉強を流用する事が可能なのではないか、と気づいた事だった。

 今まで別々のものとして考えていた。これからは領主となるべく勉強してきた事を思い出しながら、その知識で使えるものはないかを考えるように心がけてみるだけでも違う世界が見えるようになるだろう。


 次に印象的だったのは、ドニがちゃんと部下の名前だけではなく性格などの細かな情報を把握していた事。やっぱり、情報というものは強い武器だった。エルフリートだって、人を見てはいるつもりだ。だが、彼のような細かさはない。何が得意で、好きなのか。どうしてその作業が早いのか、当人の上司がそれらを事細かくドニに報告していたからではない。ドニ自身が彼ら一人一人をちゃんと観察していたのだ。

 人をまとめ、動かしていく為には、相手を知って動きやすい道を選ぶ必要もある。

 ごり押しばかりではだめなのだ。


「結構考えなきゃいけない事、いっぱいあったなぁ……」


 特にドニという親方はそういう部分を大切にしているのだと他の面々から言われたが、だからこそうまくいっているのだという証であるように思えた。

 ドニ、かっこいい。あそこまでは無理かもだけど、頑張ってみよう。エルフリートはどう頑張るのかも曖昧にしたまま、ただドニのようになりたいと夢想するのだった。

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