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16

 エルフリートとレオンハルトは頑張った。周囲から奇異の目で見られるのも気にせず、がむしゃらに丸太を運び続けた。何度往復したのかも覚えていない。

 少なくとも、ドニに采配や教育のコツを聞こうとしていた事を忘れるくらいには、同じ行動をし続けていた。


「疲れた。本当に、疲れた……」

「フリーデ、妖精さんじゃなくなってる」

「あら失礼」

「もう少しだからがんばって」


 エルフリートの声には隠しきれない疲労が滲んでいる。それもそうだ。連日のように丸太を運び続けていたのだから。だが、その甲斐あって今日でその作業も終わりだ。

 やっと終わりだよぉ。

 はあーと長い息を吐き、最後の丸太が乗った荷台を引く。レオンハルトに励まされるなんて、いつぶりだろうか。意外にも彼は元気にしている。やはりエルフリートと筋肉のつき方が違うのだろう。

 それに、エルフリートは女性装をする為に筋肉がつきにくくなるように気をつけている。そういった点でもエルフリートがレオンハルトよりも肉体的に軟弱になるのは仕方のない事だった。


「レオの筋肉がほしい」

「いやいや、ごつくなったら妖精さんじゃなくなってしまうから」


 レオンハルトの口調が乱れる。誰もいないから雑談が捗ってしまう。疲労感のせいもある。エルフリートはそろそろ気を引き締めないと、と思いながらもだらだらと話し続けてしまっていた。


「どうしてこんなに体力ないのー?」

「フリーデ。普通の人に比べたらじゅうぶんすごいから。それ以上すごくなってどうするんだ」


 レオンハルトにそう言われると、そんな気がしてくる。エルフリートは逡巡した。他の人と比べて格別に劣っているとは思わない。同じくらいではないか、と思う。以前に御前試合で優勝を争ったくらいなのだから、むしろ優れている方だと考えるべきだ。

 森の中を進みながら、ほとんど見えない空を仰ぐ。


「レオの言う事はもっともなんだけど、でも、より強くなりたいって思うじゃない? 上を目指したいって言うか……」

「向上心があるのは良いけど、本来の目的とかそういうのを無視しないように気をつけてね」

「はぁい」


 あーん、全部欲張りたーい! あれもこれも、全部!

 無理なのは分かっていても、そういう妄想をするのは自由――なはず。早速筋肉ムキムキになった自分の姿を想像してみて後悔した。駄目、気持ち悪いっ。

 それに、男らしく厳つい体型になったら、王子様姿のロスヴィータの隣に立てなくなっちゃう。そんなの絶対に許せない。

 危なかった。もっと強くなりたいっていう気持ちに安易に流されるところだった。


 エルフリートがそんな風に意味の分からない事を考えている内に、最後の作業が終わってしまった。最初は化け物を見るような視線を送ってきていた人も、慣れてきたのかさっきは笑顔で「お疲れ様! 大変だったろ?」と労いの言葉をかけてくれた。

 うう、みんな優しい……。

 って、そうじゃないの! お役目から解放された今こそ、親方の技術を教えてもらう良い機会!


 意気込んだエルフリートはドニのもとへと向かう。そこには、部下を厳しく指導する親方の姿があった。いつも穏やかかと思ったら、こんな風に苛烈な時もあるんだ。

 私も飴と鞭を使いこなせたら……と、そこまで考えて頭を振る。前にエルフリートが飴、ロスヴィータが鞭になるのが理想だという話になって一件落着したんのだった。疲労は思考を混乱させるって本当なんだね。

 エルフリートは親方として活動するドニの姿を参考にするだけにして、相談するのは後日、疲れが取れてまともな思考ができるようになってからにしようと思い直すのだった。




 そして、ようやく完全復活したエルフリートは、時間外にドニとの約束を取りつける事に成功した。エルフリートは興奮を何とか押さえつけ、マロリー、レオンハルト、オズモンドの三人を連れて彼との話に挑む。

 挑むってほどじゃないんだけど、気分的にはそんな感じ。


「さて、聞きたい事があるとお伺いしましたがな。我々に応えられる事などありましたかの」


 ドニは職人と作業員を連れて席についていた。何の話が聞きたいのかちゃんと伝えきれているか不安だったけど、大丈夫だったみたい。ほっと胸を撫で下ろしたエルフリートは、ついてきてくれた同僚たちに目配せをして席に着く。

 さあ、あの素晴らしい連携を成し遂げるコツ、教えてもらうよ!


 ――という事で。エルフリートはドニからどのようにして人員配置を考えているのか、指導するにあたって何に気をつけているのか、どんな工事でも共通して気をつけている事などを聞き出した。

 あれ? これって、領主として采配する時と同じかも。そっか。人の配置とか教育って共通なんだ。

 エルフリートは、職人たちが領主と同じような事を意図せずして行っている事に驚きを覚えた。


 もしかしたら、他の人たちも意外とそういった能力を育ててうまく動いているのかもしれない。エルフリートは自分の学んできた事を、ちゃんと使いこなせていなかったという事実に気がついて愕然とした。

 学んだ事は実践できなければ意味がない。それを強く思い知らされる時間となってしまったのだった。

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