13
意気揚々と荷車を引いて現場に戻ったエルフリートの姿を認めた面々がギョッとした顔で見てくる。え? 私何かしたかな。
あまりにも高確率で同じ視線を受ける事になったエルフリートが内心でドキドキしていると、オズモンドが駆け寄ってきた。
「オズモンド?」
「これ、俺がやるから」
「えっ?」
エルフリートを押しのける勢い――といっても女性相手に遠慮した風だったが――で荷車を奪ったオズモンドが歩き出す。
荷車を押す場所から出る余裕すらくれなかった。真ん中を占領したオズモンドの脇で小さくなりながらエルフリートは歩く。
荷車が大きくて助かったぁー。
「……材木屋の人に運んでもらえば良かっただろ?」
「私でも運べるし、突然そんな事したら迷惑かなって」
「あー……まぁ、気持ちは分からなくもないが……あの距離を移動してきたのは異常だぞ」
「えっ?」
そんなにおかしな事だったの? エルフリートは思わず立ち止まりそうになり、速度を維持する荷車に軽くぶつかっては慌てて歩く。
それに気づいたオズモンドが小さく「とりあえずハンドルに手を添えろ」と言ってくる。エルフリートは荷車に手を引かれている気分になりながら、彼の隣で居心地の悪い思いをしていた。
「フリーデ、お前に能力があるのは分かっているが、普通は一人で運ばないものなんだ」
「……ごめんなさい」
エルフリートが謝ると、オズモンドが穏やかに笑う。
「別に謝る事じゃないさ。ただ、目立ちたくてやっているわけじゃないなら、誰かを頼る事も覚えた方が良い」
オズモンドって、私なんかよりもよほど常識人だよね。気分を持ち直したエルフリートは「それにしても重いな」と悪態をつくオズモンドの姿を観察する。
見た目は普通。どこにでもいそうな感じ。おどけたりする事が多いからか若々しく見えるし、今はそこそこ目立っているけど、街中で静かに過ごされたら見失ってしまいそう。
だからこそ第七騎士団に所属しているんだろうけどね。
やっぱり優秀なんだなぁ。
オズモンドを観察していく内に、ある事に気づく。もしかして……髪の毛染めてる? オズモンドの髪の毛は全体的に黒いのだが、その根元は赤茶色。根元だけ染めるのは難しいし、今の流行ではない。
となると、染髪という単語が浮かび上がってくる。
髪の毛染めてるの、ルッカくらいだと思ってた。エルフリートは湧き上がる好奇心のままに、彼の髪へ触れた。
「オズモンドって髪の毛染めてるんだね」
「おい、急に触るなよな」
「ごめんごめん」
ぱっと手を離して謝れば、彼は苦笑していた。
「フリーデ嬢、婚約者のいる身でそういう事をすると、変な噂が立つからやめた方が良いぞ。まあ、お前の事だから……そういう噂は立ちにくそうだけどな」
「そういう事……」
オズモンドの言いたい事が分からず、エルフリートは小さく頭を傾ける。エルフリートに話が通じていない事に気づいたオズモンドは、ため息を吐き出してから端的に説明してくれた。
「相手の了承を得ずに、突然触れてくる事だ」
「ああ! なるほど!」
そっか。異性との接し方には気をつけなきゃいけないんだっけ。納得した様子のエルフリートに、オズモンドは再びため息を吐く。
なんか、最近オズモンドが私の保護者みたい……。こんなはずじゃなかったんだけど。
「どうやって育ったら、こんなのになるんだ」
「えへへ……」
「褒めてないって」
オズモンドが都度都度つっこみを入れてくる。それに懐かしさを覚えていると、ふいにブライスの顔が浮かんだ。
あ、そっか。ブライスに似ているんだ。
「オズモンドって、ブライスと仲が良かったりする?」
「ん? あー……仲が良いかは別として同期だぞ」
「もしかして、同い年?」
「さぁて、それはどうかな。答えるとあいつが可哀想だ」
エルフリートに向けてにやりと笑む。隠しているようで、隠していない。同い年なんだね。ブライスは見た目が厳ついから、実年齢よりも上に見えちゃうんだよね。そんな彼とオズモンドが並んだら、同い年には見えないかも。
エルフリートは二人が並ぶ姿を思い浮かべてくすくすと笑う。
「突然どうしたんだ?」
「オズモンドとこうやって話をしてると、ブライスみたいだなって」
「うげぇ、同じくくりかよ」
そういう彼は顔をしかめ、わざとらしく嫌がってみせる。そんな姿にブライスとの仲の良さを感じ取る。一緒に過ごす時間は短くても、こうやって信頼関係が築けているのってすごいなぁ。
私も、みんなとそういう関係築けたりするのかな。女装して過ごしてる間はだめか。残念。
「あっ、親方!」
「終着点か」
いつの間にかドニがリカルドを見守っている作業場までやって来ていた。ドニが大きく手を振って手招きをしている。
エルフリートはオズモンドと顔を見合せ、それからドニへと手を振った。
「先に行けよ。すぐに行く」
「ありがとう!」
エルフリートはオズモンドに荷車を任せ、ドニへと駆け寄った。




