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妖精と王子様のへんてこメヌエット(へんてこワルツ5)  作者: 魚野れん
舞台は再びおとぎ話の地へ

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 作業開始、という事で。エルフリートとドニは柵の形の検討会を始めていた。もちろん、リカルドの監視を兼ねて。

 まずはふつうの柵。棒を並べただけみたいなやつ。間隔を開ければ雪が降っても大丈夫だけど、狭くするとやっぱり壁になっちゃう。

 次に、コの字型。コの字型は大丈夫そうだったけど、間隔が難しいし、転んだ時とかには効果がない感じがする。アーチ型は、それよりはましだけど重ねないといけないから作業が大変に。


 思ったのと違う! エルフリートはそんな感想を抱く。

 カルケレニクスでは、柵を設けている場所がないわけではない。が、こういった気遣いをしたものではない。野生動物が乱入してこないようにする為の防護柵がほとんどだからだ。

 それも、丸太を使うようなやつ。雪が降っても簡単に壊れない、ってとても大切だから、強度重視で豪快な感じになっちゃうんだよね。

 だからこういう場所には使えないってわけ。


「親方さん、刺すだけの柵だと限界がある気がするんだけど……」


 ちらりとリカルドを見て精神魔法の効果が続いている事を確認しながら、エルフリートは弱気な事を言う。


「ふぅむ……。どうしたものかの。間隔を開けたまま、横木を通すとか、か?」

「横木」


 どんな感じだろうか。棒と棒の間に木の板が張られた壁のようなものを想像する。暗くなっちゃう気がするんだけど、どうなんだろう。横木の間隔次第なのかな。

 エルフリートが考え込んでいる間にドニが柵の試作品を組み立てていく。広めに打ち込まれた杭のような棒へ橋のように横木を通した。

 下の方に一本、そして半ばに一本。エルフリートの頭の上くらいの高さに一本。合計三本の横木がセットされた。


「フリーデ嬢、頼む」


 エルフリートはドニに頼まれるまま、即席の吹雪を生み出した。もちろん威力がおかしい魔法の方である。

 エルフリートの作り出した雪すさまじい勢いで柵へとぶつかっていく。それにしてもすごい威力である。エルフリートは自分で生み出しておきながら、毎回おもしろくてたまらない。

 しばらくごうごうと吹雪いたそれは、ふっとおとなしくなった。吹雪が収まった後に現れたのは、吹雪に耐えられずに横木が壊れた柵の姿だった。


「強度が足りないね。もう少し横木にするのを板じゃなくて丸太にしたらどうかな」

「丸太か」

「カルケレニクス領内の柵は、強度重視で全部丸太なの」


 エルフリートがそう言うと、ドニは顎を撫でながら考え込んでしまった。彼が考えている間、エルフリートはリカルドに視線を移した。彼は黙々と作業を続けている。その仕事ぶりは丁寧で、本業の人間のそれと間違えそうなくらいである。

 エルフリートの精神魔法の効果はしっかりと続いている。いつまで続くのだろうか。効果が続くのはありがたいが、持続時間が長すぎると副作用が心配だ。


 今日の夜に確認した時点で持続していたら、対応をしなければならない。今日の作業終了くらいのタイミングで切れてくれたらすごく助かるんだけどなあ。

 エルフリートはそんな都合の良い事があるわけないと分かっていたが、小さな期待を胸に抱いてしまうのだった。




 エルフリートがリカルドに思考を向けていると、躊躇いがちに肩をたたかれる。ぱっと振り向けば、ドニが何かを言いたそうにしていた。


「親方さん、何か妙案でも浮かんだの? それとも、丸太の案使えそう?」


 親方に丸投げしている状況になってしまっているが、エルフリートは素人なのだから仕方がない。開き直って笑顔で聞けば、彼は笑顔で教えてくれた。


「丸太の方は、固定が難しい。カルケレニクス領に伝わる技術を教えてもらわないと厳しいわい。妙案の方は、丸太を斜めに刺していってエックス字にしたらどうかというものが浮かんだぞ」

「えっ、すごい!」


 ぱちんと両手を合わせて飛び跳ねると、ドニは肩をすくめて苦笑する。


「まあ、まずは丸太を持ってこないとどうにもならんわけだが」

「そっか。そうだね。持ってくるよ!」


 できる事の少ないエルフリートにとって、それは役に立てる良い機会である。急いで町へ戻って木材の調達を行えば、今日検証する事ができる。


「えっ、おい!? お嬢ちゃん!!」


 慌てるあまりにエルフリートの呼び方まで変わってしまっている。


「リカルドの様子だけお願いね!」


 エルフリートはそれだけを叫び、そのまま町へと駆け出した。補助魔法をかけ、森を抜け、町に入る。

 材木屋に駆け込み、早口で告げる。


「防護柵に使う丸太を五、六本ちょうだい! 道路の工事、柵に使えるか試したいの。あとで請求しておいて」

「は、はぁ……? えっと、ここにありますんで……おい!」


 声をかけられた店員の一人がばたばたと足音を立てて去り、荷台に丸太を乗せた荷車を引いて帰ってきた。


「ありがとう!」

「あ、運びま――」

「大丈夫! ありがとう!」


 店員から荷車をさらりと奪い、エルフリートはひと足踏み出した。重いけど、レオンハルトに教えてもらったコツがある。

 いける……っ!

 エルフリートは腰を落として体重をかける。荷車は無事に動き始めた。あとは速度を出しすぎない程度に急いで帰るだけ。

 エルフリートは意気揚々と作業場へと向かうのだった。

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