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妖精と王子様のへんてこメヌエット(へんてこワルツ5)  作者: 魚野れん
舞台は再びおとぎ話の地へ

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 何とか良い感じになりそう。ドニとの会話に手応えを感じていたエルフリートはご機嫌だった。何もなくても笑顔になってしまう。あからさまに機嫌の良さを表に出している彼の姿をいぶかしんだマロリーがそっと近づいてきた。


「フリーデ、ずいぶんと楽しそうじゃない」

「マリン!」


 朝食の時はエルフリートが親方との一騎打ちをする為に移動してしまったから、ゆっくりと話す時間がとれていなかった。エルフリートはマロリーに、昨日の夕食時に伝えていた話の続きを説明した。


「結構話が進んだのね」

「そうなの。とても楽しみ」


 エルフリートを見つめるマロリーは、まるで子供の世話を見ている乳母のようだ。それもそうだろう。彼女は柵を作る時に特殊な魔法を使うと予想しているらしい。これからの作業が楽しみなのだ。

 魔法を使うのが好きなマロリーの事である。きっと、彼女はエルフリートとドニがおもしろい魔法を編み出すのだと思っているのだろう。実際どうなるのかまだ分からないのに、気が早い。


「魔法はあまり使わないかもしれないよ?」

「まあ、手のあいている人ってあなたくらいだものね」

「う……っ」


 痛いところを突いてくる。手が空いている、といえばリカルドは大丈夫だろうか。精神魔法を使った後のフォローをしていなかった事を思い出す。はっとしたエルフリートは思わず周囲を見回した。もうそろそろ移動の為に全員がエントランスへ集合するところである。

 時間に合わせてリカルドも現れるはずだ。

 エルフリートの考え通り、リカルドの姿を見つけた。


「マリン、ちょっとリカルドのところに行ってくるね」

「いってらっしゃい」


 急いで向かうと、元気そうな彼の姿があった。本当ならば、昨日の作業終了時点でリカルドの体調を確認するべきだったのに。柵の事で頭がいっぱいになっていたエルフリートは、彼の事をすっかり忘れてしまっていたのだ。


「リカルド、おはよう! 調子はどう?」

「おはよう、フリーデ嬢。今日の作業時にも、同じように精神魔法をかけてくれると助かるんですがね」

「うん。その話がしたくて話しかけたんだ。まずは昨日の精神魔法の影響が残っていないかを確認させてくれるかな?」


 精神魔法の影響が残っていた場合、それを差し引いて軽いものにするか、魔法を行使する事自体をやめるかしなければならない。その程度を確認せずに行うと、効果が強く出すぎてしまったり、別の影響を及ぼしてしまったりといった事故に繋がりかねないのだ。

 エルフリートはリカルドにいくつかの質問を行った後、彼を壁際に連れていった。そして、壁にある模様がいくつあるのかを数えさせる。これで彼が精神魔法をかける前と同じように変な動きをしたら大成功だ。


 完全に魔法の効果が抜けていれば、何も気にせずに魔法をかけ直す事ができる。完全に効果が持続していれば、重ねがけになってしまうからやらない。効果の程度が微妙に残っていたら、影響度を確認してどうするか考える。

 精神魔法は頻繁に使って良いものではない。だからこそ、多少面倒でもしっかりと検証する必要があるのだった。


 ――果たして結果は。リカルドはにこにこと満足そうに頷いていている。彼にかけた魔法は、その効果を維持していた。どうやら、エルフリートの精神魔法は一昼夜では抜けなかったようだ。

 だが、その影響でリカルドに何らかの変化があったわけでもない。いたって正常だ。


「リカルド。今日は念の為、近くで作業するようにするから」

「お願いします。今は大丈夫でも、向こうで駄目になるかもしれないし……」


 不安そうな彼にエルフリートは微笑んでみせる。それはそのはず。崖から落ちちゃったら死んじゃうもんね。命がかかっているんだから、不安にもなる。

 リカルドが作業をしている場所の近くの崖側で柵の検証作業をすれば、一石二鳥だ。

 万が一精神魔法の効果が切れてしまったとして、親方があの姿を見れば、より真剣に柵の事を考えてくれるようになるかもしれないし。まあ、魔法の効果が切れない方が良いんだけど。


「リカルド、大丈夫だからね」

「それを祈るよ」


 よほど、崖から落ちかけたのがこたえているようだ。戦争よりも怖かったのかもね。死ぬかもしれないと分かってて過ごすのと、そういう危険がないと思ってた時に死にそうになるのは別の怖さなのかもしれない。

 エルフリートは死の恐怖について、そんな考察をする。


「じゃあ、また後で!」

「はい、また」


 エルフリートがひらひらと手を振ると、リカルドは弱々しい笑みを返した。安心してもらう為にもちゃんと検証して、早く柵を作ってあげたい。

 ドニの知恵を借りて、何とか形にしたい。今日は難しいかもしれないけど、少なくとも雪の影響を受けにくい柵の形くらいは。

 エルフリートは「いい加減に戻ってこい」という視線を向けてくるマロリーを見て小さく飛び上がった。


「ごめん! お待たせ!」

「まったく……」


 駆け寄るエルフリートにマロリーがため息を吐く。ごめんってば!

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