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妖精と王子様のへんてこメヌエット(へんてこワルツ5)  作者: 魚野れん
イベント事が盛りだくさん

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 ロスヴィータの反応の鈍さに何かを感じたのか、ブライスが割り込んでくる。


「アイマルさんよぉ……お前、いつも唐突なんだよ。指導する時は丁寧で分かりやすいのに」

「む……俺はちゃんと、分かるように言葉を足したつもりだったんだが、駄目だったのか?」

「そういう奴だよ! お前は!」


 ロスヴィータの目の前で、小競り合い――ブライスがアイマルに一方的に絡んでいるように見える――が始まった。世話焼きな兄とマイペースな弟……そんな言葉がロスヴィータの頭に浮かぶ。さっきまでの暗い考えが有耶無耶になっていく。

 彼らの話題はロスヴィータへの言葉の意味から遠く離れ、人間性にまで発展していく。ロスヴィータはそんな彼らをゆっくりと眺めていた。


「そういう言動、誤解されるからやめた方が良いって。どうやってお前国外で諜報活動してたんだよ」

「その国の雰囲気に合わせて。だが、今はそんな必要ないだろう?」

「いやいやいや、何でだよ。もっとこの国に馴染む努力しろよ」


 アイマルが不思議そうに首を傾げる傍ら、ブライスがうなり声を上げている。気持ちは分からなくもない。だが、そこまで気にするものだろうか。

 ロスヴィータの疑問は、口にする前にブライスたちの手で解消された。


「お前が一人で出歩いても大丈夫なように、お前が攻撃されることがないようにしていきたいってのに、本人が非協力的じゃ困っちまうんだがな」

「生き残れて、そしてこうやって過ごせているだけでじゅうぶんなんだ。誰かが認めてくれるとかそういうのは別に期待していない」


 独立させたいブライスと、その必要性を感じていないアイマル。アイマルの発言に違和感を覚えたロスヴィータだったが、その正体を掴めないまま、彼らの話は進んでいく。


「ずっと俺の監視がつくんだぞ。それがない時は自由に動けないんだ。そんな人生で本当に良いのか?」

「別に、俺はかまわんが」


 ずっと平行線をたどることになりそうだ。これは二人が別の場所で話し合うべきものだ。

 ロスヴィータは二人が口を閉じた一瞬を狙い、話に滑り込んだ。


「盛り上がっているところ悪いが、フリーデが空いたぞ」

「おっ、本当だ。教えてくれてありがとうな」

「すっかり話が逸れてしまっていたな……客の分際で失礼した」


 アイマルに謝罪されると何となく居心地が悪いというか、腹のすわりが悪いというか。ロスヴィータは珍しく曖昧な笑みを浮かべて首を振った。


「ロス! ブライスたちを案内してくれたの? ありがとう!」


 そうしている内にロスヴィータたちに気づいたエルフリートが大きく手を振る。可愛らしい姿をしている時と変わらぬ所作に、思わずロスヴィータの口元がゆるむ。


「フリーデ。わざわざ仕事を抜け出してきてくれたらしいぞ」

「おいっ」

「え、そうなの!? へへ、嬉しいなぁ」


 適当に言っただけだったが、事実だったのだろうか。いや、ブライスのことである。ちゃんと持ち場を誰かに任せてからこちらに来たに違いない。

 エルフリートがふわりと笑むと、ブライスはその笑顔にあてられたかのように口元を震わせた。なんとなく、気に食わない。


「ブライス、どう思う? 私たちのお揃いのドレス」


 エルフリートがぐいっとロスヴィータの腕を引き、自分の隣に引き寄せる。特別扱いをされ、少し前に感じていた不快感が吹き飛んでいく。

 ロスヴィータは現金な自分に小さな呆れを覚えつつ、表情を保つ。ブライスはそんな二人の様子を優しく見つめ、小さく頭を横に振った。


「そうだな……ずいぶんと大人っぽくなったもんだな。ま、中身は相変わらずだが」

「え、ちょっとどういうこと!?」


 エルフリートがぷくりと頬を膨らませると、彼は豪快に笑った。ブライスの隣に立つアイマルは逆になぜかむすっとする。そこでようやく気づく。

 なるほど、アイマルはブライスをかなり気に入っているようだ。先ほどのやり取りで感じたものは、これだったのかもしれない。せっかく仲良くなった相手が「自分から離れろ」と言ってくれば意固地になったりするわけだ。

 ロスヴィータが“エルフリーデ”の正体がエルフリートだと知らなかった時、似たような感情を覚えた記憶がぼんやりと残っている。


「フリーデ、姿を変えたところですぐには成長しないんだ」


 ブライスが唐突に丁寧に話し出す。どうやらエルフリートをからかう方向でいくらしい。ブライスは中身がエルフリートである事を知っている人間の一人である。エルフリートとロスヴィータの衣装を見て、そしてエルフリートの行動から彼が何を望んでいるのかを察して動いてくれているのだ。

 エルフリートの狙いを汲み取り、周囲の反応を考えて行動してくれるのはありがたい。


「ブライスの意地悪! この美しい私を見て、他に何か言う事ないの?」


 エルフリートはブライスの考えを感じ取り、動いていく。事前の打ち合わせなしにそれをやってのける即興力は、さすがである。ふと、アイマルに視線を向ければ、彼は小さな不満を燻らせているようだ。

 もう少ししたら、ブライスとアイマルの相棒関係が強固であるという事を理解するだろう。そうなれば、このやりとり一つで感情を大きく揺らすような事はなくなるはずだ。それはエルフリートとブライスの関係にもやっとしてしまう事のあるロスヴィータにも言える事ではあるが。

 そんな事を考えている内に、小さな嫉妬心を燃やしていたロスヴィータのそれはあっけなく鎮火するのだった。

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