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6

 エルフリートの雰囲気が変わった。そう思ったのは自分だけではないはずだ。ロスヴィータは五周年記念パーティーを目前に、ぐっと大人っぽくなった彼を覗き見る。

 可愛らしい妖精さんそのものだった彼に、凛としたものを感じる。小さな変化ではあったが、ロスヴィータは戸惑っていた。


「男性っぽくなった、とかではないが……」


 思わず考えている事が口をついて出た。目の前には書類の束。頭の中はエルフリートの事でいっぱいだ。完全に集中力が切れてしまっていた。

 ロスヴィータは考えるだけ無駄な努力になるであろうその思考から逃げ出せずにいる。それは精神の鍛錬不足なのか、エルフリートがその理由について自主的に申告してこないから気になって仕方がないのか。ロスヴィータは両方だな、と思った。


 エルフリートは前よりはよくなったが、やはり一人でどんどんがんばってしまう。気持ちは分かる。ロスヴィータだって、そういうタイプだからだ。

 だが、二人でがんばろうという話をし、納得したはずだ。少なくともロスヴィータはなるべく彼に話をするようになった――のだが。


「私には、話したくないという事だろうか」


 話す必要がないと思われていたとしても、話したくないと思われているのだとしても、もやもやとする。一度、エルフリートと話をした方が良いのかもしれない。

 頼りにしてほしいという意味ではないが、彼の一番の理解者は自分でありたいと思ってしまう。これは、ロスヴィータのわがままだ。


 ままならないな。ロスヴィータはデスクに突っ伏した。ただでさえ今年は一緒に活動できる時間が限られているというのに、なぜか距離を感じてしまう。

 なんだか、エルフリートがすたすたと歩いていってしまい、置いていかれてしまいそうになっているような気分だった。


「これはもしや、私がエルフリートを自分と同一視しているだけか?」


 疑問という穴に、ぴったりと当てはまる気がした。がんばったところでしょせんは他人なのだ。同じように考える人間はいるかもしれないが、別人なのだ。


「……いかんな、どうにも」


 ロスヴィータは身を起こして盛大なため息を吐き出した。とりあえず、話をしてみよう。そうすれば、きっとこの説明しがたい気持ちも、彼の行動の理由も、何もかもはっきりするだろう。




 時間外になるなり、エルフリートを呼び出す事に成功したロスヴィータは、エルフリートの口から吐き出された最近の悩み事を知り、目を丸くした。


「……女装が、似合わなくなってきた気がする?」

「うん、そうなんだよね」


 エルフリートが結界を張ってまで話してくれたのは、自分の骨格や顔かたちが大人の男に向かっていっているという現状報告だった。確かに、ロスヴィータと同じ速度で身長が伸びているように見えるが、ロスヴィータの方は既に伸び悩み始めている。

 女性騎士団の中でも抜きんでて長身だったバルティルデとほとんど同じ身長になったが、これ以上はあまり伸びそうにない。

 それに比べてエルフリートは、順調に背が伸びていっているらしい。あまり身長が伸びすぎると、確かに女装も厳しくなってくるだろう。


「身長があるから、可愛い妖精さんって感じじゃなくなってきたなって思ってて。それで、妖精さんらしさをどうやって出すか、路線を変えていった方が良いんじゃないかって」

「……なるほど?」


 ふっくらとした頬でかわいらしさを演出するには薹が立った風に見えてしまうのではないか、という事だろうか。ロスヴィータから見たエルフリートは、まだまだ可愛い路線でいける気がするが、本人は危機感を覚えているようだ。

 それで、高身長でも違和感のない、綺麗系を目指そうという事になったらしい。

 確かにエルフリートの顔は整っている。可愛いと言えば可愛いが、美人だと言えば美人にも見える。成長したら美人になった、と主張するのはありだろう。

 しかし、である。


「私は可愛い妖精さんのあなたも好きだったのだが……」

「えっ」


 恨み節を言っているようになってしまったな、とエルフリートの驚く顔を見て後悔する。


「あ、いや、今のあなたの姿を否定するつもりではなくて、だな」

「うん」

「その、もうあの姿は見せてくれないのか、と寂しい気持ちになってしまったと言うか……」

「ロス……」


 エルフリートの考えている事は、おそらく正しい。ロスヴィータのゆるっとした考えは、きっと彼に不利益をもたらすだろう。


「私は、どんな姿のあなたでも好きだから、もし、いやでなければ……いや、そうじゃないな。今までのような格好がしたいと思った時は、私の前でだけ、その姿を見せてはくれないだろうか?」


 ロスヴィータはきゅっと口元を結んだ。ひどいわがままだ、と思う。だが、ロスヴィータは彼が生き生きとしている姿を見るのが好きだ。好きな姿で、自由に過ごしてほしい、と思う。

 じいっと見つめれば、彼は徐々に顔色をよくしていった。むしろ、良い顔色を通り越して真っ赤に染まってしまった。

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