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妖精と王子様のへんてこメヌエット(へんてこワルツ5)  作者: 魚野れん
イベント事が盛りだくさん

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2

 雑談をしている内に、時間になってしまった。祭壇の前にアントニオが姿を表す。緊張しているのだろうか。これから戦にでも行くのではないかと思うほど、鋭い眼光をしている。

 結婚は戦いだとも言うから、もしかしたらこれが正しい姿なのかもしれないけど。

 そんな事を考えていると、背後の扉が開いた。陽が射し込んで光の絨毯が伸びていく。はっとして振り返れば、光の扉の前に花嫁が立っていた。


「綺麗……」


 純白のドレスに包まれ、しずしずと歩き始めるマロリーを認め、エルフリートは思わず感嘆の声をあげた。マロリーのドレスは上半身はシンプルに総レース、下半身はボリュームを持たせたシルエットのスカートをレースリボンが装飾して可愛らしさを表している。

 総レースのドレスは全体的にタイトでスリムな意匠が多い。が、あえてそれを外す事でマロリーらしさを出している。マロリーの性格と見た目、それぞれを尊重したのだろう。

 マロリーの歩みに合わせ、ふわりふわりとドレスの裾が揺れる。騎士の中でも魔法攻撃過激派として知られ、一部には恐れられているとは思えない可憐さである。


「似合っているな」

「うん……」


 ロスヴィータの声にも賞賛の色が滲んでいる。エルフリートはマロリーの晴れ姿を目に焼きつけるように見つめながら頷いた。

 宣誓をし、結婚証明書にサインを行い、提出する。一連の流れをエルフリートは夢見心地で見守った。

 普段は前髪で隠されているマロリーの額が露わになっている。そこにアントニオがサークレットをかける。挙式後に加工されて誓いのネックレスとなるものである。


 彼女の優しげな色合いに合わせ、淡い緑色の宝石にしたようだ。明るめのブラウンヘアと灰色の目の間に、小さな彩りを与えている。あのさやわかな色味はミントグリーンベリルだろうか。とても似合っていた。

 マロリーがアントニオと自分の小指をチェーンで繋ぐ。こちらのチェーンは後でアントニオの誓いのネックレスになるものだ。二人を繋ぐチェーンには、赤い宝石がつけられている。


 アントニオがサークレットに口づけ、マロリーがチェーンの宝石に口づけ、式は完了だ。二人がこちら側に振り返れば、全員が笑顔で拍手した。

 無事に夫婦の誓いを済ませ、お辞儀する。それを合図にエルフリートたちは立ち上がって大聖堂の外へ出た。二人の門出を祝うための道を作る為である。


「私、ここが良い」


 扉から一番離れた場所に立つ。


「良いぞ」


 近くに立ちたい他の人とは違う動きを見てエルフリートのたくらみに気付いたロスヴィータが小さく頷く。エルフリートは全体を見渡した。一直線に引かれた祝福の道が丸見えな位置。ある種、ここは特等席だ。

 しいてデメリットを上げるとしたら、二人に祝福の言葉をかけるのが最後になってしまう事くらいである。エルフリートはアントニオと彼の腕に手をかけて歩くマロリーが二人揃って大聖堂から出る瞬間に、魔法を使った。


 エルフリートが得意とする、呪文を必要としない幻影魔法である。色とりどりの花びらを舞わせ、ひらひらと踊る花びらの合間に小さな輝きをちらつかせる。

 花と光の舞に気付いた全員がわぁっと感激の声を上げた。美しい背景に彩られ、新郎新婦がよりいっそう華やかに輝いている。


「良い演出するじゃないか!」


 新郎新婦を祝う声の合間から、バルティルデの大声がエルフリートの耳にも届く。


「マリン、お幸せに!」


 まだ距離はあるものの、思わず叫んでいた。エルフリートの声が聞こえたのか否か、マロリーが小さく笑う。その様子を見たアントニオが彼女を予告なしに片腕で抱き上げた。

 小指がチェーンで繋がっている為だろうが、なんとも豪快である。マロリーは一瞬驚いたように目を見開き、苦笑を滲ませたと思えば満面の笑みになった。


 そのままアントニオがエルフリートたちの方へと向かって歩いてくる。見届け人の最後尾であるエルフリートとロスヴィータを目の前に、マロリーを抱き上げたアントニオが立ち止まった。


「マリン、ずいぶんと可憐な花嫁になったな。おめでとう」

「二人とも、おめでとう」


 ロスヴィータの祝福の言葉にエルフリートが続く。長ったらしい、気取った言葉は必要ない。二人が心の底からの、そして飾り気のない言葉を伝えると、マロリーは目を輝かせて笑う。


「ありがとう。私、あなたたちの結婚式も楽しみにしているわ」

「そう来るか」

「ありがとう。気合い入れたドレス着るから、楽しみにしてて」


 驚くロスヴィータと違い、エルフリートは素直に頷いた。エルフリーデの見た目をしているエルフリートだと分かっているマロリーは、一瞬だけ「何を言っているんだ彼は」と言いたげに顔を強ばらせ――それから彼が彼女だった事を思い出して表情を和らげた。

 今だってドレス着てるのに、ちょっと失礼じゃない? そう思ってしまったエルフリートだったが、そんなマロリーを見てアントニオが幸せそうに頬をゆるませているものだから、忘れてあげる事にしたのだった。

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