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 エルフリートの準備の甲斐あり、二件の転落未遂はあったものの全員が崖の上にたどり着いた。転落しそうになった騎士はロープのおかげで事なきを得たが、ひやりとした。


「お疲れさま。これから測定と試料採取をするよー」


 休憩を挟んだ後に建築技師からの頼まれ事を始める。まずは予定している道の幅よりも少し広い範囲を、調査エリアだと分かるように印をつけるところから。

 疲労感を残す騎士の姿もあったが、難しい作業ではない為、これ以上の休憩はかわいそうだが我慢、である。


「ボールドウィン副団長、こちら完了です!」

「ありがとう、助かる。次はあっちね」


 エルフリートは着実に作業をこなしていく為に騎士の人員を調整してから、地面に穴を開け始めた。

 穴を開ける魔法具を地面に触れさせて魔力を込める。棒状の魔法具は、エルフリートの魔力を受けると勝手に沈み込んだ。爪先ほどだけ沈んだ魔法具が小さく震え始める。エルフリートが手を離してしばらく待つと、勝手に地面から抜けてころりと転がった。


「これで、一つめ」


 採取が完了した魔法具を鞄にしまい、新しい魔法具を取り出した。

 崖付近の検査をしていたエルフリートは、調査範囲の印付けが終わって同じように魔法具を使い始めた騎士たちを見る。全員魔法が使える人選だから、道具の使い方に問題はなさそうだ。

 エルフリートは安心し、試料採取に戻るのだった。




 十人ほどで行えば、試料採取も早い。エルフリートたちは想定していたよりも早く、採取を終えた。


「崖を降りるしかないけど、大丈夫そう?」

「ボールドウィン副団長、ここまで登らせておいて、それはないでしょう」

「えへへ、そうだよねー」


 一時的にレオンハルトの隊に所属している――レオンハルト本人はカルケレニクス領の領主と打ち合わせをする為に不在だから、実質エルフリートの隊にいるも同然であるが――オズモンドが笑う。

 彼は転落しかけた騎士の一人である。エルフリートはその反応に一抹の不安を覚えながら笑い返した。


「マリンは最後に降りてきてくれる? ハーケンとかが重さに耐えられなくなってるかもしれないから、一番身軽なあなたに頼みたいんだ」

「落ちそうになっても、助けてくれるんでしょう?」

「もちろん!」


 マロリーが落ちる前に誰かが落ちそうであるが、エルフリートはしっかりと頷いた。マロリーは特に気にした様子もなく、小さく笑う。


「元々最後に降りるつもりだったわ。だって、あんなのが上から落ちてきたら私、ひとたまりもないもの」

「あー……確かにぃ……」


 あんなの、とはオズモンドたち男性騎士のことだろう。女性騎士の中はもちろん、一般女性の中でもマロリーは小柄な方である。そんな彼女が落下する騎士に巻き込まれでもしたら、大変な事故になるに決まっている。


「私の事は気にしないで、さっさと降りてくれる? それで、途中で落下する彼らを助けてあげて」


 マロリーの中では、何人かが落下する事が確定しているらしい。エルフリートは苦笑しながら頷いた。


「じゃあ、また後でね。気を付けて降りてきてね」

 何を、とは言わなかったがもちろん落下物についてである。

「ええ。フリーデも気を付けて。あぁ、私たちの後輩はちゃんと私の直前にするから安心して」

 マロリーは小さく顎で、不安そうにしているシャーロットとアイリーンを示した。エルフリートは二人に向けて手を振って微笑みを送ってやる。


「試料を預かるからおいで」

 そう声をかければ、二人が近寄ってくる。入団して二年目の、しかし一年目にとんでもない経験をする羽目になった彼女たちは、とても真面目な騎士だった。


「お願いします!」

「ありがとうございます。最後まで集中力を失わず、必ず安全に崖を降りてみせます」

「あんまり意気込んでも失敗しちゃうから、ほとほどにねぇー」


 力強く発言する新人二人にエルフリートは小さく笑う。そうして、彼女たちの荷物が軽くなるようにしたエルフリートは、崖を降り始めるのだった。




 正直、下りの方が難しい。確保したルートを忠実に辿っていけば良いのだが、言うほど簡単ではない。ロープを使った懸垂下降を駆使していく事になる為、山岳訓練をしている騎士と言えども事故が起こりやすい。

 なるべく人員を山岳訓練での成績の良い騎士で揃えたと言っても不安が多いどころか、エルフリートのような人間でも緊張する移動方法であった。


 ゆっくりとロープを滑らせながら降りていく。ロープが足りなくなる前に確保していた別のポイントに自分を繋ぐ。真っ直ぐ登ってきたわけではないから、時々左右移動しなければならない。自分の重さなどを頭の片隅で考えながら慎重に体を動かしていく。

 確保していた全てのポイントに魔法を付与して事故の可能性を減らしながらエルフリートは順調に崖を降りた。無事に崖から降りてきたエルフリートに向かって来ようとした技師の一人を片手で制し、周囲の状況を確認する。


「……一番怖いのは、道の向こうに落ちる事だよね」


 道の向こうは再び崖である。あちら側に行ってしまえば、エルフリートも助けてあげられない。つまり、向こうに行けない状態にしつつ、落下する相手を確保する必要がある。


「母なる神よ、子熊を守りし神よ、何人たりとも通さぬ堅牢な壁を彼らに恵まん」


 エルフリートは己の背後に結界を生み出した。これで一安心である。あとは、マロリーの予想通りに落下する騎士を助けるだけだ。

 エルフリートは騎士に降下準備完了の合図を送った。

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