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アイマルの魔法攻撃は意図せぬ被害が発生しないように炎だけは使わないと決めているらしい。
「コルピーレ」
さっきから、氷だの風だのがロスヴィータに飛んでくる。ロスヴィータはつららのようなものを剣で弾き飛ばす流れでアイマルに切りかかった。
が、アイマルはロスヴィータの動きなど予測済みとでも言うかのようにひらりとかわす。
「スピエド」
「うわっ!?」
突然ロスヴィータの足下が隆起する。慌てて飛び退けば、地面から逆つららのような突起が生えていた。避けずにいたら、串刺しにでもなっていたのではないだろうか。
すうっと血の気が引いていくのを感じ、気を取り直す。前を見据えれば、アイマルがにこやかな笑みを浮かべていた。
「はは、さすがに驚いたか」
「本気で殺しにかかってきたのかと思ったぞ」
補助魔法を施して勢いよくロスヴィータとの距離を詰めるアイマルに、ロスヴィータは口元を歪めて応戦する。速度が加わってさっきの模擬戦闘でやり合った時よりも重たくなった剣を受け、耐える。
「まさか。その気だったらもっと早く作る」
「だろうな」
「のんびり作ってたから、あんな風に避けられただけだしな」
暗にもっと早くできると言われてぞっとする。こんなのと真面目に戦っていたら、命がいくつあっても足りないに違いない。
ロスヴィータと何度か剣を交わしたアイマルは、ステップを踏みながら器用にも突風を生み出した。突風は避けようがない。必死で耐え、突風と同時に向かってくる剣を受け止めた。
じぃんと腕が痺れる。力の勝負になれば、負けしか見えてこない。ロスヴィータは不意に力を抜いて剣を流し、攻めに切り替える。
ロスヴィータが踏み込むまでもなく、再び生み出した突風を追い風にしたアイマルが接近する。追い風に任せて動く男に、ロスヴィータは今がチャンスだと感じた。
アイマルがハンマーアタックで応じようとするのに合わせ、ロスヴィータも同じ位置に向けてハンマーアタックを繰り出す。キヨン同士をぶつける事は普通の手ではない。だからこそ、の攻撃である。
「くっ」
鈍い音でぶつかり、はじき合う。ロスヴィータは回転し、剣を横に凪ぎ払った。
「惜しい、かな」
「あ」
ロスヴィータが空を舞ったのは一瞬の出来事だった。正直、ロスヴィータは何が起きたのか分からなかった。
「さっきのお返し」
よく見てみれば、アイマルがロスヴィータの長剣――それもブレードの部分――を片手で掴んでいる。強化魔法を使用しているのだろうが、なんとも危険な使い方である。
ロスヴィータはかろうじて己の武器から手を離さなかったものの、アイマルに振り回されるがまま、大地に背中をつけた。
「私の負けだ。それにしても、最後にこんなごり押しをしてくるとは思わなかった」
「意表を突かなければ決着がつかないと分かっていたからな」
「それはそうだ」
アイマルから長剣の使用権を取り戻したロスヴィータは、それを置いて起きあがる。
「ロスのカウンター攻撃は面白かった。よく、ハンマーアタックを返そうと思ったな」
アイマルから差し出された手を握り、引っ張ってもらう。彼は丁寧にロスヴィータの背中についた土を落としながら笑った。
「誰も考えないような事をしようとしたまでだ」
「なるほど。あれは確かに驚いた」
「時間が押しているから、短時間で決着をつけたかったのだが……逆手に取られたな」
ロスヴィータは、どこからが彼の企みだったのかと振り返る。ロスヴィータが仕掛ける為にハンマーアタックを返した時だろうか。それとも――
「突風からだ」
「む……」
ロスヴィータの心を読んだのだろうか。そんなばかばかしい考えが頭に浮かぶ。
「細々とした魔法を使っていたのに、突然おおざっぱな魔法に切り替えたのは、あえて今までのリズムを乱して反応を見る為だった。
同時に、それを利用して俺が作った自分の隙がロスの隙へと変わる瞬間を待っていたんだ」
なるほど、そういう事か。ロスヴィータは自分がまんまと彼の誘いに乗せられていた事を理解する。ロスヴィータが剣を横に凪ぐ瞬間、アイマルが望む隙が生まれていた。
あの攻撃は、剣の動きが完全に分かりやすかった。剣を振る勢いが収まろうというところで剣を掴み、そのまま振ったのだ。しっかりと剣を握っていたロスヴィータは、その動きに引っ張られて空中に投げ出された、というわけである。
前回の模擬戦闘があったからこそ、アイマルが思いついた技であった。
「……それにしても剣を掴むか?」
「魔法騎士なら、これくらい思いついて当然だろう」
ロスヴィータの揶揄にアイマルがにやりと笑う。段々ブライスに似てきたな。やはり一緒にいる時間が長くなると似てくるものなのだろうか。
「そういう事にしておいてやろう」
ロスヴィータは笑いながら頷いた。そうしている内に観客をしていたメンバーと合流する。ロスヴィータはバルティルデたちと同じようにアイマルへ向き合い、口を開く。
「さて、二つの戦いについて評価を頼む」
そうしてアイマルによる模擬戦闘の評価、解説が始まるのだった。




