表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/85

9

 翌日、ブライスの許可を得たロスヴィータはアイマルを連れて女性騎士団員の前に立った。


「今日からしばらく、アイマルが訓練指導をしてくれる事になった」


 ロスヴィータの言葉に驚いたように顔を見合わせた彼女たちは、小さなざわめきの後に笑顔で拍手を送る。


「えっ、どうしよう。ちゃんとできるかなっ」

「私、訓練見てもらえるような実力ないのに、こんなの贅沢すぎます……!」


 ルッカの時とは違った反応に、ロスヴィータは目を瞬かせた。ルッカの時は普通に「はい、分かりました」といった感じだったのに、これはどういう事だ。ルッカの評判が悪かったのか、緊張したのか。それとも、アイマルという特殊な人間だからなのか、はたまた女性騎士団の外からの指導者に興奮しているだけなのか。

 きゃっきゃと可愛らしく騒ぐ彼女たちに、何とも難しい気持ちを抱いた。


「アイマル、挨拶を頼む」


 ロスヴィータに促され、一歩前に出たアイマルは普段通りの態度で口を開く。


「マディソン団長に紹介された通り、今日からしばらくの間、訓練の指導を担当させていただく事になったアイマルだ。甘やかしたりはしないし、かといって無謀な事をさせたりもしない。

 安心してほしい」


 そう言って一歩下がった彼は、隊長職についていただけあって挨拶も場慣れしていた。きゃあっと女の子特有の可愛らしい悲鳴が上がる。

 騎士らしからぬ姿だが、今回は見逃すことにした。


 彼女たちのやる気が維持され、能力の向上に貢献するのならば何だって良いのだから。場面に合わせて締めれば問題ない。アイマルのせいでゆるみっぱなしになるようならば、口を挟まなければならないが。

 とはいえ、最初に注意しておくに越したことはない。そういう人間がいないと思いたいが「言われなかったから」と言い出さないようにする為の保険である。


「ルッカが来てくれていた時と同じように、女性騎士団全員が集まって訓練する時間にアイマルが指導をしに来てくれる。彼の名誉を汚さぬよう、また彼の大切な時間を割いてもらっているのだという事を忘れぬように。

 アイマルの技術を伝授してもらえるというこの貴重なチャンスを逃したりしない事を祈る」


 ロスヴィータが全員を見回せば、彼女たちは面々に頷き返した。その目には明らかに気合が入っており、やる気満々といった表情であった。浮かれているわけではないと分かり、ほっとする。

 この前のルッカの件もあったから、きっと能力向上に対する気の持ちようが違うのだろう。


「では、早速だが――」

「はいはいはいはい!!」

「エイミー……?」


 ロスヴィータの声に重ねるようにして挙手した少女に目を丸くする。

 彼女はきらきらと目を輝かせながら笑顔で「マディソン団長とアイマルさんの模擬戦闘が見たいです!」と威勢よく叫んだ。


「私と、アイマルの?」


 彼との模擬戦をするのはやぶさかではないが、必要な事だろうか。そこまでして見たいものだろうか。

 ロスヴィータには鼻息を荒くしながらロスヴィータを見上げる彼女の気持ちが分からない。だが、他の人は違うらしい。


「あの、私も見てみたいです」

 ドロテのそんな発言を皮切りに、女性騎士団の面々が口々に賛同の意を唱えた。


「ロスが()()()()()()と想定して、二種類くらい模擬戦をしてみたらどうだい?」

「バティ」

「魔法を使わずに戦闘する場合と魔法を使って戦闘する場合で、さ」


 バルティルデの助け舟に、なるほどと思う。アイマルは魔法騎士である。両方の敵役をこなす事ができる彼だからこそできる指導方法があるはずだ。それを、ロスヴィータ相手にデモンストレーションしてもらうという事だ。

 なかなか良いアイディアである。これから自分たちがどんな指導をされるのか知る事にも繋がるし、ロスヴィータとアイマルの模擬戦を鑑賞する事で見えてくるものもあるだろう。


「分かった。アイマル、私を生徒役として二回、指導としての模擬戦をしてもらいたい。

 一度目は普通の剣を振るう騎士として。二度目は魔法騎士として。良いか?」

「もちろんだ。頼む」


 正直に言うならば、アイマルはロスヴィータよりもはるかに強い騎士である。特に彼が魔法を使った場合は「手も足も出ない」と言いたいくらいである。ロスヴィータの場合はその差をどう埋めていくかが課題だ。

 ロスヴィータはアイマルとの模擬戦の準備を進めながら思案する。スピードは互角、攻撃の重みは若干ロスヴィータの方が負ける。

 となると、打ち合いを続ければ競り負ける事になる。ならば、どこかでアイマルの隙を狙うしか勝つ術はない。


 隙とは何だ。どうすれば隙ができるのか。アイマルとの模擬戦経験は少ない。それは、彼との訓練を控えていたからではない。単純にロスヴィータが忙しすぎたせいである。

 時間がなくて、一緒に訓練できなかっただけであった。

 彼の癖を把握できているわけではないからこそ、彼の隙が分からないのであった。


 作戦が浮かばぬまま、模擬戦闘の準備が終わる。アイマルと向かい合ったロスヴィータは、小さく頷いて準備終了を合図した。


「それでは、魔法を一切使わない模擬戦闘を始める」


 バルティルデがそう言って手を振り下ろす。心の準備が完了しないまま、模擬戦闘が開始した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ