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 決意を新たにしたからといって、作業速度が格段に上がるわけでもなく、無理が祟ったルッカの体調不良がすぐに良くなるわけでもない。

 頼りのルッカが寝込んでいる間、ロスヴィータはバルティルデと共に騎士の訓練を行いつつ、騎士学校の方にも顔を出したり、と忙しい数日を送っていた。


「やはり、人手が足りない……」

「元から足りていなかったんだ。二手に分かれたらそりゃ、余計人手が足りないだろうよ」


 バルティルデの言う事は否定しようがない。ロスヴィータはため息を吐いた。透き通った空を見上げ、疲労で曇った気持ちが晴れればさぞかし気持ちが良いだろうに、と思う。

 ロスヴィータの憂鬱な気持ちを知ってか、バルティルデがばしんと背中を叩く。


「っと、バティ?」

「考えてたって、何も変わらないさ。まずは体を動かしてタスクをこなさなきゃ」

「それも、そうだな」


 前にもこんな話をしなかっただろうか。ロスヴィータはエイミーとドロテの組手に視線を戻す。彼女たちは非武装時、あるいは武装解除時を想定した体術訓練をしている最中であった。

 相手の攻撃を避ける、ガードする、掴む、受け流す、あわよくば武器を奪う――それらを判断して使い分ける練習、というわけだ。

 武器を持っていない場合、身の回りの物を武器として転用し、相手と対等であろうとする事だってできる。そういった判断力は簡単に身につくものではない。

 回数をこなして覚えていくしかないのだ。


「あーあ、堂々巡りしてばっかりだねぇ! ま、人手不足はそう簡単に解消できないさ。戦争と同じでね――そうか、ここを戦場だと思えば良いのか。何か見えそうだ」

「バティ?」


 珍しくバルティルデが目を輝かせている。目を見張ったロスヴィータに、彼女は片目をつぶって笑みを作った。


「閃いたら報告するよ」

「助かる」


 どんな話になるかまったく見当もつかないが、斬新でおもしろい話かもしれない。ロスヴィータはバルティルデの出す話が今から待ち遠しく思えるのだった。




 バルティルデから案がもたらされたのは、それから数日後だった。すっかり体調を整えたルッカが教官役として復帰してくれた為、少しだけ気持ちに余裕がある。

 ゆっくり話をしたかったロスヴィータは、執務室ではなく自室へと招いた。

 仕事を終えた二人は部屋に入るなり、打合せを始めた。


「単刀直入に。女性騎士団の新人をブライスかアントニオの隊に一時的に預けてしまうのはどうだい?」

「な……っ!」


 大切な部下を他の隊に預ける、という案は、ロスヴィータの頭にはまったくない考えだった。それには、女性と男性の性差を考えての理由が大きい。

 まず、未婚の女性が多い事を鑑み、今後の人生に影響を与えかねないリスクを排除したかった。醜聞になりそうな要素は排除したかった。特に、地位が確率されていない今は。

 それだけではない。体力や体つきの差、そもそもの実力不足からなる差、それらのせいで彼女たちがけがをするリスクが高かった。

 そういった人間との立ち回りに不慣れな騎士との訓練に混ざれば、大けがの原因になりかねないのだ。


「女性騎士団が、騎士団に混ざって訓練する時に団長の存在が必須だとしているのは、女性騎士団の安全の為だろう?」

「そうだ」


 ロスヴィータの目がある場所で、無茶な事はしない――というわけではない。ロスヴィータが彼女たちの安全を考えた訓練内容にするからだ。

 部下の能力をきちんと把握しているからこそ、できる事である。


「なら、信用できる隊にならば、預けても良いんじゃないかと思ってね」

「……なるほど、一理ある」


 つまり、訓練の教官がしっかりとしていれば良いのである。ロスヴィータはバルティルデの提案が、まったくの当てずっぽうではない事を理解した。


「ブライアンは、女性騎士団をかなり大切に扱ってくれるし、そもそも手練ればかりだからブライアンやロスが目を放す瞬間があったとしても、問題なく機能するだろう。アントニオの隊は、隊長自身の婚約者が女性騎士団の幹部候補であるからして、無茶な事はしないだろう。

 ま、アントニオの性格上、無茶しないっていう私の勘もあるけどね」

「確かに、バティの言う事は尤もだ」


 バルティルデが指摘した通り、ブライアンの隊は女性騎士団ともよく訓練をしていた関係上、女性騎士団がどういうものなのか理解してくれているはずだ。そして、アントニオの隊は、自分の婚約者が所属している騎士団の人間をないがしろにすることもないだろう。

 無茶をせず、女性騎士団を対等に扱い、かつ女性であるという点を忖度ではなく配慮できる騎士の隊はその二つしかないかもしれない。

 彼らの隊ならば、騎士も彼女たちに対して変な事をしないだろうし、正しい対応をしてくれるだろう。


 しかし、である。女性騎士団の騎士たちは、それに納得するだろうか。信頼関係が築かれていないとは言わないが、ロスヴィータがこの事を実行するにあたり、雑に扱われているのだと勘違いしたりはしないだろうか。

 ロスヴィータが直接面倒を見るべき面々である。それを、他者にゆだねる事で何らかの想定外の思考が生まれる可能性を否定する事はできなかった。


「だが、彼女たちはどう思うだろうか?」

「聞いてみりゃ良い。現状を正直に伝え、他の隊で面倒を見てもらおうか悩んでいるのだと、相談してみれば良いのさ」

「……相談」


 バルティルデの言葉に、ロスヴィータは彼女が言わんとする事が分かった。

 

「ルッカのように、弱みを見せてやれば良い。そして、彼女たちが自ら“そうしたい”と頷いてくれるように仕向けるってわけ」

「バティもなかなか悪い事を思いつくな」

「ふふ、それなりに傭兵をこなしていたんでね」


 バルティルデのひと押しで、ロスヴィータは彼女たちの成長の為、一芝居打つ事を決意するのだった。

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