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 それにしても、ルッカはすごい。ルッカが部屋を出ていった後、ロスヴィータは改めて彼女のすごさを実感していた。

 自分の中にない思考を、あたかも素であるかのように演出する。それは、滅多に出さない素として表現すれば、そう難しい事ではないだろう。

 だが、それを思い付く事自体が難しい。


 ルッカの発想の良さには、いつも驚かされる。彼女は魔法具を日々生み出しているだけあって引き出しが多い。

 現在は義肢の開発に集中しているが、きっと今までの経験が彼女の発想力を支えているのだろう。


「ルッカは次代の騎士団長候補、かな?」

「いや、年齢が近すぎる。もう少し下の世代になるだろう。私の引退が早くなければ、な」


 バルティルデの茶化すような問いかけに、ロスヴィータは笑みを漏らしつつも小さく首を振った。ロスヴィータが引退するのは、もっと後の予定である。

 となれば、もっと若い世代の方が良いに決まっている。


「そうだねぇ……ロスが辺境伯夫人としてむこうに籠もってしまったりしなければ、お早い引退はないか」

「私は、そのつもりはない。今のところはな」


 ロスヴィータは遠い、しかしいずれはやってくるであろう未来に思いを馳せる。ロスヴィータが去る時、女性騎士団の規模はどうなっているのだろうか。人材の育成は進んでいるだろうか。

 また、女性騎士団の団長の座を頼みたくなるような人間はいるのだろうか。


「あーあ、あんたがばあさんになってるって事は、あたしもばあさんになってるんだろうねぇ」

「はは、元気な老人になりたいものだな」


 バルティルデはいつまで経っても、きっと変わらないだろう。傭兵上がりが分かる軽口や態度、飄々としているようで芯は真面目。傭兵ならではの視点や考え方、他者との距離感の保ち方、経験の多さからくる精神的余裕。

 そんな彼女は、年齢を重ねただけ“慕われる騎士団長”のお手本のような人間になるのだろう。


「嫌だね! そんな年まで騎士をしてたら、殉職待った無しじゃない」

「さすがに私も、誰かの足を引っ張る前に引退するよ。というかバティ、あなたはいつまでも現役騎士のままでいるつもりか?」


 騎士の先頭に立って敵や犯罪者とぶつかる事だけが上級騎士の役目ではない。騎士を統率し、育て、また意味のない権力闘争などから守るのも上級騎士の役目である。


「本来のあたしは突撃部隊だからね。人の上に立つよりは、中間あたりにいて部下と一緒に相手へぶつかりに行く方がお似合いさ」

「さすがは元傭兵。だが、可能な限り私がしているような事務仕事もできるようになってもらうぞ。女性騎士団にいる、使える騎士はまだ少ないのだから」


 バルティルデは、隊長格になれる騎士の一人である。現在、そういう騎士は第一期と第二期の、合計六人だ。ロスヴィータ、エルフリート、バルティルデ、マロリー、ルッカ、エイミーだけ、という事だ。

 第三期の面々は戦争へ参加させられた事で、精神的には強くなったものの実力が伴っておらず、能力的にはまだまだ新人だった。


 それ以降は、本人に気合いがあり、そして今後の見込みがありそうな一般市民である。

 騎士としての活動は認めているものの、先輩騎士と一緒にしなければ不安が残る。自警団くらいの認識だと言えよう。


「早く育てないと、ねぇ。人数を増やしたくともできないし、最低限の能力すら持っていない志願者の方が多いし、課題はまだまだ山積みだわ」


 ため息混じりなのは、これからの大変さを想像して、だろうか。ロスヴィータは雑な仕草で書類を机に並べる彼女に向け、小さく笑んだ。


「その為には、我々指導する側の手が空かねばならない」

「あー! あたしだって、分かってるさ」


 バルティルデは半ば叫ぶように言って、手に持っている書類を置いた。書類の分別は終わりらしい。ロスヴィータはルッカとの対話の為に座っていた応接用の椅子から、執務用の椅子へと移動する。


「ははは、がんばろう。私もがんばるから」

「はいはい、これだからお貴族様は。最初から何でもできて羨ましいったらないね」

「代わりに戦場を駆け回るような無茶は許してもらえなかったがな」


 二人は軽口を言い合って笑う。が、二人とも、これからの事について考えていた。

 これが苦手だ、あれは難しいからやりたくない、などと言っている場合でないのは分かっていた。


「気合いを入れていこう」

「せめて、彼女たちがルッカを倒せるようになるくらいには、しておきたいね」


 命を取り合うような緊迫さはないが、自分たちの置かれている状況はそれに近いと言えるだろう。

 この調子のままでは、いつになっても女性騎士団の人数は増えない。実力のある騎士も。そうなれば、わざわざ女性だけの騎士団を運営していく意味がない。

 女性騎士団は、お飾りになる為に作ったのではない。


「書類の整理や処理も、速度を上げていこうか」

「耳が痛いね。でも、ま。やるよ」

「バティはやればできるんだから、面倒くさがらずに手を動かせ。その優秀な肉体がもったいないぞ」


 ロスヴィータは気を引き締めて書類に向かう。バルティルデもそれに倣い、作業の続きに戻る。なるべく早く、指導に戻ろう。

 二人の考えている事はそれだけだった。

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