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観戦し始めた時から変わらない態度のルッカに、ロスヴィータはどことなく違和感があった。それが明らかになるまで、そう時間はかからない。
「ルッカ、そろそろ限界かもねぇ」
「……バティ」
バルティルデの視線は汗を散らしながらエイミーの切っ先から逃げるルッカに向けられている。
「ロスだってそう思うだろう? だってあの子、自分に精神魔法をかけて制御してる」
「そもそもあの人数を一人でっていうのが無茶なんだよ」
バルティルデの言葉にジークは大きく頷いた。精神魔法をかけているせいで、攻撃を受けた際の微妙な表情変化がない。だから、違和感を覚えたのかとロスヴィータは納得する。
「それにルッカは今回、戦い方をすごく気にしている。魔法が使えるメンバーには対応できるぎりぎりのラインで魔法の攻撃をしかけているし、魔法が使えないメンバーには威嚇とか程度の魔法だけだ。
個人個人の能力に合わせて、戦い方を変えてるんだからすごいよ」
今はロスヴィータと同じく魔法が使えないエイミーだけとの一騎打ちになっているせいで、魔法で攻撃する頻度が下がっているからよく分かる。
魔法が使えないからと、勉強不足をそのままにしておいたが、同僚の解説だけを頼りにするのは情けない。ロスヴィータはひっそりと今後の課題にすることに決めつつ、今の自分でも分かる事を口にする。
「全員の能力を把握していなければ、難しいはずだ」
「そうなんだよ! ルッカはすごいんだ!」
ロスヴィータの発言がジークに火をつけた。もしかしなくとも、ジークはルッカのファンなのだろうか。
ルッカの理解者が一人でも多いのは良い事である。が、この熱狂具合は少々度が過ぎる気がしなくもない。
「俺の憧れなんだ。他者の能力の分析と把握もここまでくると、怖いくらいだ。でも、そこが良い。お、ルッカが攻めに転換した」
そのまま倒してしまえ、とひどい声援をジークが送る。やはり“親切なジーク”という存在は幻だったのだ。
ジークの性質はともかく、彼の解説を聞けば聞くほど、ルッカのすごさを実感する。
「騎士の育成にも貢献できそうだな」
「平時はそれでも良いかもね。ルッカは指揮官向きなんじゃないかな。あ、でも参謀の方がよさそう。
指揮官はロスみたいな気さくで人望が集まりやすい人間じゃないと厳しいから」
……なるほど。ロスヴィータはジークの言葉を聞いて、昨日のルッカとの会話を思い出した。彼女は他者との交流が苦手そうである。他者と仲良くする為に、相手の感情などを注意深く観察する事も不得意そうだ。そういうロスヴィータは得意なのかと聞かれたら、即答しにくいが。
少なくとも、ルッカよりはできる。と、思う。
「私には理想の姿が明確になっているからな。そうある為に必要な事をしているだけだよ」
ロスヴィータはおとぎ話に出てくる王子様のような人間になりたい。そう思い、突き進んできた。王子様ならばどう動くだろうか。そんな思考が染み着き、いつの間にかそう考えずとも自然と動けるようになっていた。
「さすが王子様。ルッカも理想の姿を見つける事ができたら化けるって事か」
「いや、彼女は既に別の方向で理想を見つけてしまったから、こっち方面はどうなるか分からないぞ」
「えっ!?」
足払いに失敗し、体制を立て直そうとするルッカの姿が目に入る。やはり、疲労が溜まってきているのだろう。
エイミーの目はぎらついており、勝ちにいこうとしているのが分かる。エイミーも良い表情をするようになった。ロスヴィータは彼女に感心しつつ、ジークに説明してやる。
「ルッカは、魔法具の義手が作れたらそれを義足にも転用したいと言っていた。四肢の欠損で騎士生命が絶たれる事は大きな損害だとも。
彼女は魔法具で引退騎士の数を減らすつもりだ。そして、その最初の一人として、女性騎士団に復帰したいと」
「ルッカの理想は、そっちかぁ……」
ジークの想像する姿とは違っていたらしい。ロスヴィータは残念そうにする彼に苦笑した。
「だが、彼女の目標は必ず騎士の希望になる」
ロスヴィータがそう言った瞬間、ルッカがエイミーの顔面に切っ先を突きつけた。勝負あり、だ。
騎士たちが思い思いに叫び出す。大きな歓声は、訓練場を揺さぶった。同期と後輩だとはいえ、現役の騎士相手に大立ち回りをしてみせたのである。
それも、動きにくいドレス姿で。
「お付き合いありがとう。では、評価を」
「一旦休憩を挟んだ方が良い」
「……ロス」
「ジュードが労いの品を用意してくれているぞ」
近くで待機していたジュードがルッカへと飲み物を渡したりして世話を焼き始める姿を見守った。彼女は最初こそ断る素振りを見せていたが、ジュードには強く出られないらしい。
渡された飲み物を大人しく飲み始める。
つい先程まで一人で騎士たちと戦い、一人勝ちしたとは思えない姿である。
「まずは」
「落ち着いてからで良いだろう」
気が急いているのか、休憩もそこそこに評価を始めようとするルッカに、ロスヴィータは再び待ったの声をかける。しかし、彼女は小さく首を横に振ってそれを否定した。
「いえ、たいへん申し訳ないのですが、私が忘れてしまう。記憶が新しい内に評価しておきたいんです」
「……そうか」
ルッカがそう言うのならば、仕方ない。ルッカの身を案じての声掛けだったロスヴィータは、彼女の正直な言葉に主張を下げるのだった。
2026.2.6 一部加筆修正




