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妖精と王子様のへんてこメヌエット(へんてこワルツ5)  作者: 魚野れん
二手に分かれた女性騎士団

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 アーノルドがそっとカップを下ろし、エルフリートを見つめた。エルフリートの中から何かを探ろうとするような視線に、これから何を聞かれるのか不安になった。

 が、不安は的中しなかった。

 音漏れ防止に魔法をかけた後の言葉は、エルフリートを緊張させたものの、難しい話題ではなかった。


「アイザックは大丈夫か? 大岩に興味を示していたようだが」

「た、たぶん大丈夫です。遭難未遂も良い薬になったようですし」


 だが、人間の気持ちは揺らぎやすい。時間が経ち、今日の恐怖が薄らいだ頃には考えを変えてしまうかもしれない。それくらいは予想済みである。


「大岩がこのカルケレニクスにとってのシンボルであることは理解しているな?」

「もちろんです。だからこそ、研究しないように約束させました。明日にでも契約書として書面に残そうと思っています」

「なるほど。それは良い考えだ」


 アーノルドはゆっくりと頷いてみせる。


「父上はあの大岩の調査について、どのようにお考えですか?」

「どのように、とは?」


 質問を質問で返され、エルフリートは内心で文句を言いたくなる。が、スムーズな会話をする為の確認という意味合いが強い質問に、エルフリート自身が最初から具体的に質問すべきだったのだと思い直す。


「不思議な力が本当にあるのか、ただの思いこみで我々カルケレニクス領民が過ごしているだけなのか、そのあたりを検証してみたいとは思います。

 結局、あの大岩の逸話に近しい何かは起きていないわけですし。

 そこで、質問です。父上は調査に対して、大岩が破損する可能性を恐れているから否定的なのですか? それとも、既に情報(答え)を持っているから必要ないと考えているのですか?」


 エルフリートが知る範囲では、あの大岩に関する書物はほとんどなかった。そうなると、領主専用のあの魔獣のように、領主専用の書物があるのかもしれない。

 エルフリートの問いに、アーノルドは目を瞬いた。


「そういう方向の質問だったか。そうだな……両方、といったところだ。あの大岩は、巨大な魔法具だと言われている。それを生み出したのが、フェーデが憧れる()()()()だ」

「……」


 そんな話、初めて聞いた。隣を見れば、レオンハルトも驚いたような顔をしている。

「あの……」

 おそるおそる、といった風に手を挙げたレオンハルトにアーノルドが微笑む。


「どうした?」

「これって、領主一族でもない俺が聞いて大丈夫な話ですか?」


 確かにそれは気になる事かもしれない。エルフリートですら今まで知らされなかった話を、一緒に聞いているのだから。


「どうせもうじき仲間入りだ。かまわないよ」

「あの、俺、後継者の配偶者じゃないですし……」


 確かにレオンハルトはエルフリーデの配偶者になる予定だ。どの範囲までの秘密なのか分からないが、エルフリートに知らせていなかった事を考えると、おそらく領主とその配偶者までの限定的なものなのではないかと察せられる。

 という事は、レオンハルトは本来、知ってはいけない人間だったはずだ。それが分かっているからこそ、この反応なのだ。


「私の見立ては正しい。君はきっと、フェーデの腕としていずれ振り回される事になるだろう」


 にこりと笑うアーノルドに、レオンハルトは遠慮がちに笑んだ。あまりにも失礼ではないかと考えていたエルフリートだったが、レオンハルトのその困惑した表情に少しだけ溜飲が下がった。


「フリーデには直接話すから、それまで黙っていてくれるか?」

「もちろんです」

「ならば、続きを話そう」


 置いてけぼりになっている気持ちになりつつ、エルフリートはアーノルドの話を聞いた。


「かつてのカルケレニクス領に、妖精と呼ばれた存在がいたのは事実だ。

 彼女は美しく、純粋で、理由は分からないがカルケレニクス領の土地やそこに住まう人間をとても大切にしていた」


 そうして始まった彼の話は、確かに公にはしない方がよさそうな物語であった。


 妖精は周囲に戦乱の空気を感じ取るや否や、何人たりとも進入できない土地になるよう、カルケレニクス領の地形を加工して天然の要塞にしたのだ。彼女がふるった力はすさまじかった。

 隣国側から攻め込まれないように、間にあった森は隆起して山となり、その外側はすべて崖となった。当時きな臭かった本国から身を守る為、地続きだったはずの部分は崩落、または隆起し、あの細い通りだけが残った。


 かなりの魔力を持つエルフリートが百人いてもできないことを、その妖精はやり遂げたのだ。だが、地形を無理矢理変形させたことは、想定外を引き起こした。それが、暗黒期である。

 暗黒期は、妖精の力が尽きたことによって引き起こされたのだ。妖精はカルケレニクス領に住む、すべての生き物に謝罪しながら、彼らから少しずつ魔力を分けてもらい、復活した。それが何年も続けば困ってしまう。

 そこで考えられたのが、あの大岩だったのだという。


「え、でも暗黒期は今もありますよね?」


 エルフリートの問いに、アーノルドは頷いた。


「今の暗黒期は前の暗黒期とは少し違う。それも、ちゃんと説明するよ」


 そうして続けられた話は、エルフリートがよく知るあのおとぎ話のモチーフだった。

2024.4.13 誤字修正

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