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妖精と王子様のへんてこメヌエット(へんてこワルツ5)  作者: 魚野れん
二手に分かれた女性騎士団

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 睡眠不足に疲労が重なったからか、エルフリートはあっという間に意識を失った。目を覚ましたのは、日が暮れようという時だった。


「うわぁ……結構寝ちゃったなぁ」


 あくびをしながら目をこすったエルフリートは、暗くなり始めた室内を魔法で明るくした。

 ぎしぎしと軋む体に苦笑した。上半身はそうでもないが、やはり下半身が痛い。ぐっと前屈して筋肉をほぐそうとすれば、ひきつったような感覚がエルフリートを襲う。


「うん。無理した自覚はある」


 筋肉をほぐそうとしたら、逆に筋をやってしまいそうだ。エルフリートは再びベッドへごろりと転がった。

 動いていなくても痛い筋肉まである。こんな短時間で痛くなるのは、相当である。やはり、精神魔法でごまかさない方が良かったかもしれない。とはいえ、人命が関わっていたのだから、後悔はしない。

 筋肉痛だけで済んだのだ。これ以上何を望むというのか。


「欲張りになっちゃう」


 できることが増えると、責任も増える。エルフリートは重いため息を吐いた。エルフリートは筋肉痛の部分をゆっくりと撫でる。


「賢き神よ、民の守人へしばしの安寧を」


 乱用は駄目だけど、仕方ないって事で。自分に言い訳をしながら魔法の効き具合を確かめる。さっきと同じように前屈をすれば、すんなりとできた。


「これでよし。起きよう!」


 エルフリートは夜着をふわりとたなびかせながらベッドから降りる。筋肉のきしみも、倦怠感も、何も感じない。快適そのものだから、魔法が切れるまで油断しないように気をつけないと大けがしてしまう。

 エルフリートは体の不快感の解消と引き替えに神経質に動く事を受け入れた。




 私服に着替えたエルフリートは、ほぼ徹夜で作業した編み物のチェックをし始めた。これなら体の負担にもならないし、昨晩の不手際を探して少しでもクオリティの高いものが提出できるようになる。

 まずは指摘されていた編み目の揃い具合から。そしてまれにあった編み間違い探し。長編みの時に、つい拾う目を間違えてしまう。ねじれた部分をみかけては発狂しそうになったものだ。


 淡々と同じ編み目が続く時は比較的気付きやすいが、模様を作る時は編み目のねじれに気付くまで時間がかかる事が多い。棒針ではなく、かぎ針だからだろうか。

 エルフリートは棒針で編み物をしないからいまいちそのあたりの違いは分からないが、少なくとも今のエルフリートにはそういう傾向があった。


「……あ、やっちゃってる」


 エルフリートは渋々そのモチーフを解く。編み物、向いていないのかも。小さなミスを見つける度、エルフリートはそう思う。それでも、やると決めたのはエルフリートである。途中で諦めるつもりはなかった。

 解いて縮れた編み糸を丁寧に整える。完全に元通りになるわけではないが、少しましになった。


「よし。集中する」


 手に取った人に失礼な品を渡すわけにはいかないし、何より、それがいつの日かの自分のドレスになるのだ。ロスヴィータに誰よりも美しく可愛らしい妖精の姿を披露する為、いかなる妥協もしてはならない。

 エルフリートは、必ず成し遂げるという強い気持ちを胸に、ひたすら指を動かすのだった。




 扉がノックされる音で我に返ったエルフリートは、自分がずいぶんと作業に熱中してしまっていた事に気が付いた。


「フリーデ、今大丈夫?」

「レオン。大丈夫だよ」


 エルフリートの返答を受け、レオンハルトが扉を開けて覗き込んできた。エルフリートに対してそこまで警戒しなくても、と思う反面でどうして今回だけ警戒しているのか不思議に思う。

 よくよく見てみると、レオンの後ろにはアーノルドが立っていた。私服になっていて良かった。心の底からほっとした。さすがにエルフリートでも、寝間着の状態で無防備に領主と会話をする鈍感さはない。


「お父様まで、どうしたんですか?」


 部屋の外の人間との会話、誰に聞かれるかも分からぬ状況である。エルフリートは口調に気を付けて問いかけた。


「何、今日の出来事について話を聞きたくてな」

「詳しくはゆっくりお話しましょう。どうぞ中へ」


 扉を引いて二人を中に案内する。テーブルの上は編み物でごちゃごちゃとしていたが、それ以外に見苦しい部分はないはずだ。サービングカート――エルフリートが食事を下げるように指示したら、ラーシュが入れ替わりで置いていってくれた――から、ティーセットを取り出した。


 食後のお茶用にかなって思ってたけど。エルフリートは魔法で湯を沸かして紅茶の用意を始めた。蒸し終わるまでにテーブルの片付けをしてしまう。テーブルについたアーノルドとレオンハルトは、エルフリートがささっと作品をデスクの方へ移動する様子を無言で見つめていた。

 ラーシュはこうなる事を予測していたのだろうか。だとしたら本当に目端の利く人物である。ラーシュの優秀さに関心している内に、片付けは終わり、飲み物は完成してしまった。


「はい、どうぞ」


 エルフリートがそれぞれにカップを差し出せば、彼らはそっと口をつけるのだった。どこから説明するべきかな。

 少し悩んだ末、エルフリートはアーノルドが口を開くのを待つ事にするのだった。

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