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妖精と王子様のへんてこメヌエット(へんてこワルツ5)  作者: 魚野れん
二手に分かれた女性騎士団

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 無事に身支度ができたエルフリートは、部屋に集合した女性騎士団やレオンハルトと共に館を出た。今日は少し天気が悪い。雪がちらついて冷たい風が吹き付けてくる。

 エルフリートはコートのフードを深くかぶり、脱げないように固定する。呼気が凍りそうだなと思いながらエルフリートが先頭を歩いていくと、後ろで誰かが転倒する音がした。


「大丈夫?」

 振り返れば、ドロテが雪の中に埋もれていた。

「……ドロテ?」

「ぷはっ!」


 冷たい雪に冷やされ、顔を真っ赤にした彼女が顔を見せると、ぷるぷると頭を振って雪を落とした。


「すみません、雪に慣れていなくって……」

「けがはしてない?」

「はいっ」

「それなら良いよ」


 エルフリートが笑顔を見せれば、ドロテはほっとした顔をした。急いでいるからといって、足下の悪い場所を慌てて移動するのには問題があったようだ。

 慣れている場所だからと配慮が足りなかったな、とエルフリートはこっそりと反省するのだった。




 大岩はそんなに遠くない。とはいえ、近くもない。三十分ほど歩いた先に、ようやく大きな陰が見えた。


「小さな山じゃない」

「そりゃあ、向こうから見えるくらいだしねぇ……」


 マロリーの感嘆の声に、エルフリートはのんびりと頷いた。真っ黒で不思議な大岩は、周囲に似たような色の岩も石も見かけない。唯一の岩だ。

 そんな不思議な岩に、触れるどころかなぜか登ろうとしている人間が見える。顔が見えず、誰なのかは分からない。その人物は登り始めたところらしく、膝丈程度の高さにいる。

 その様子を見守るように、騎士たちが遠巻きに囲んでいる。その面々から、騎士以外の誰かであることだけは分かり、エルフリートはほっとする。


「お待たせー!」


 エルフリートに声をかけられた人影が、びくりと体を震わせ落下する。相変わらず誰かは分からないが、何とも滑稽な姿である。あの高さならばそう大したけがにもならないだろう。


「大丈夫?」


 声をかけながら近付けば、その正体はエルフリートたちを呼び出した張本人、アイザックであった。


「何してるの? この岩を傷つけたら大変な騒ぎになっちゃうから、やめてほしいんだけど……」

「傷つけるだなんて、とんでもない!」


 たった今、岩登りをしようとしていた男の態度ではない。エルフリートはアイザックの目的がまったく分からなくて、どういう反応をすれば良いか分からない。


「とりあえず、この場所に呼んだ理由が知りたいなぁ」


 エルフリートの言葉に、アイザックは慌てて姿勢を正した。


「集まってもらったのは、この大岩について質問したかったんだ」

「この大岩が何なのか知らない人まで集めた理由は?」

「質問の答えによっては、調査できたら良いなと……」

「調査」


 エルフリートは繰り返した。ちょっぉっと、それは、問題があるかなぁ……。


「この大岩はカルケレニクス領の財産なのと、傷つけるような事をしてはいけないものだから、調査の許可を下ろすのは厳しいかなー」

「そうなのか」


 残念そうに肩を落とすアイザックだが、エルフリートは大岩に関しては妥協できない。


「一応、質問だけ聞くけど。何が聞きたかったの?」


 答えるかどうかは別として、知っておくべきだろう。エルフリートの問いかけにアイザックは数回の瞬きの後、目を輝かせた。ぐっと前のめりになった彼は、楽しそうに話し始めた。


「この大岩。そもそも大きさがもう別格だ! こんな大きな固まり、そう簡単に自然発生するわけがない。そしてこの黒さ! このレベルの黒さを持つ岩は、硬すぎて逆に割れやすかったりするんだ。こう、すぱーんと。

 いったいこれはどうやって生み出されたんだい?」


 大興奮の質問だったが、エルフリートが回答できる内容ではなかった。残念ながら、彼の質問に対する答えをエルフリートは持っていないのだ。


「分からないんだよねぇ。でも、これ信仰対象物だから、存在しているだけで良いの」

「信仰対象……!」


 あ、なんかスイッチ入っちゃったかな。エルフリートは小さく口を歪ませ、ひきつった笑みを浮かべた。


「神を奉っているのか?」

「神、ではないかなぁ……」

「なんとっ!?」

「神かもしれないけど、ちょっと説明しにくいなぁ」


 神と言えば神、妖精と言えば妖精。祈る対象は神だが、その話のもとになったのは妖精である。なかなか難しいものである。


「ちょっと説明に時間がかかるって言うか、なんて言うか」


 妖精のことを神だと言う人もいて、そのあたりが統一されていない。そこまで説明しようとするには、天候が悪化しつつある場所でのんびりと伝えられるような情報量ではなかった。

 エルフリートの読みが正しければ、これから天気が荒れていくだろう。このままでは最悪遭難である。


「ここの調査やらないって約束してくれるなら、領主の屋敷に戻ってゆっくり説明する機会を設けても良いけど」


 エルフリートの言葉に、アイザックは考える様子を見せる。やっぱり調査したいの? そんな魅力的に見えるのかな。調査したいと言われたところで、駄目だとしか回答しようがない。

 エルフリートはアイザックが頷くまで、辛抱強く待つのだった。

2025.11.29 一部加筆修正

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