録音テープ【 5 】
鬱・グロ・残酷描写を含みます。
魔法少女のイメージを崩したくない方は
閲覧をおすすめしません。
《録音テープの記録5》
カエデは次の日からおかしくなった。
ずっと何か呟いていて、
突然笑い出したり泣いたりするようになった。
流石に精神面が心配になったのか、
カエデはカウンセリングを受けさせられた。
カウンセリングの効果ってあるのかな。
悪化もしないけど、改善もしなかった。
カエデは任務の度に、私に向かって
「今から家に帰れるんやで。
楽しみやなー。明日から学校やなー。」
と喋りかけてきた。
私はおかしくなったカエデに
関わりたくなくて、ずっと無視していた。
...いや、本当は怖かったのかもしれない。
私もカエデみたいになってしまうんじゃないかって。
なんとか自分はまだ正気なんだって
そう思って今まで生きてきたけど、
本当はずっと前から狂っていたのかも。
現れる怪物は日に日に変になっていった。
前は知能も生命も感じない、
ただ無機質に動く塊だったのに
今はもう人の言葉を話す「何か」になっていた。
化け物は私に向かって「殺さないで」って言う。
「まだ生きたい」「ごめんなさい」って。
私の方をじっと見ながら恨めしそうに呟く。
私は化け物のことを撃ち続けた。
そうしないと、化け物が化け物じゃなくなるから。
私はただ命を奪うだけの存在になってしまう。
こいつらは悪いやつで、
世界中のみんなを殺す気なんだって
そう自分に言い聞かせて
たくさんたくさんたくさんたくさんたくさんたくさん
殺した。
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ザザッとノイズが鳴り、静かな時間が過ぎる。
俺は少女が話し始めるのをひたすら待った。
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.........ごめんなさい、ごめんなさい。
私は.........。
ううん、違う、そうじゃない。
私は話さなきゃいけない。
...........大丈夫、大丈夫。
ある日、カエデが外に行こうって言ってきた。
外っていうのは屋上のこと。
鉄格子で覆われた檻みたいな屋上。
私は変な気分でカエデの後をついていった。
カレンがいなくなってから、
ずっと頭がぐるぐるしてマトモに考えられない。
身体もだるいし、カエデと話すのも
とても久しぶりのような気がした。
外はもう夜になっていて、
カエデは鉄格子を握りしめて夜空を見上げた。
そして、突然大声で叫んだ。
「助けてーーーーー!!
化け物がいるーーーーーーー!!
ウチらのこと殺そうとしてるんやーーーーー!!」
私は呆気にとられていた。
カエデはひたすら夜空に助けを求める。
既にカエデは狂っていた。
自分が魔法少女であることを忘れて、
ただ一人の少女として
世界中に助けを求めていた。
「カレンのことずっと探してるんに、
見つからないんや!!
なんで?
なんでカレンはいなくなったん?
ウチらどうなるん?
死ぬんか?殺されるんか?」
気づけば、カエデは泣いていた。
堰を切ったように嗚咽を漏らしながら
泣き叫ぶカエデの姿に、
私も涙が溢れてきた。
私も帰りたかった。
助けてほしかった。
私たちのことも魔法少女に助けて欲しかった。
なんで私たちなの?
私たちが何をしたって言うの?
色んな感情が込み上げてきて、
涙が止まらなかった。
心は既に死んでいたと思っていたのに
全然死んでなんかいなかった。
ただ押し殺していただけだった。
世界中から見放されたこの気持ちを、
理解したくないだけだった。
私とカエデはひたすら泣いて、叫んで。
次の警鐘が鳴る時まで
誰にも気付かれずに
ずっとずっと、助けを求めていた。
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