必殺 角ドリル
俺は息を荒くして、地面に寝転んでいた。
「そちは軟弱じゃのう。やはり、部下にはいらん。」
鬼の面を付けた女は、プイと頭を斜め上へ向けた。
「大和、この女が銅の目の陰陽師なの?」
「鬼神の面をしているから、きっとそのはずだ。
……そうだよな?」
俺と月読は、天照の方を見た。
「ほっほっほっ、そちらは運がいい。
これから世界に三人しかいないと言われる瞳の色が変わる陰陽師のこのわらわがそちらに、銅の目を見せてやってもよいぞ。その黒いままのまなこに焼き付けておくとよいぞ。」
天照は振袖の中を探って、細長い紐を取り出した。その取り出した紐を顔に付けた鬼の面の横の穴に括りつけた。それを頭の後ろに回して、もう一つのお面の横穴に括りつけた。そして、鬼の面を頭の斜め上にずらした。
そして、仮面の下から天照の顔が出てくると、さっきまでの気の強い性格とは裏腹に、照れているようで、頬を真っ赤にしていた。視線を斜め下にして、両手の指を股下あたりで絡めて、揉んでいた。時たまこちらの方を見ては、目を逸らした。
「……いっ、いきまーす……。」
そう小さく呟くと、瞳を銅色に輝かせた。以前として、視線は斜め下で固定されていたが、こちらを見る頻度が上がり、一層頬を赤くし、少し笑っているようにも見えた。
可愛い……。
しばらく瞳を銅色に光らせると、目の色を戻して、斜め上に紐で固定してあった鬼の面を顔にずらした。
「どうじゃ、これが世にも珍しい銅の目じゃ。分かったか、そちらとわらわの格の違いが。
今なら、ひれ伏して、服従を誓うなら、部下にしてやってもよいぞ!」
鬼の面を付けた天照はその場に腕を組んで仁王立ちすることで、寝転んでいる俺と座っている月読を見下した。俺と月読はその天照の姿を冷めた目で見ていた。そして、俺と月読は天照から視線を外し、お互いを冷めた目で見つめた。
俺たちは分かり合ったように、うなづき合った。そして、俺たちは天照に向かって、互いの目を金と銀に光らせた。
「……なっ、なんじゃ。そちら、目が……えっ……。」
天照は衝撃を受けたように、こちらを交互に指さしながら、後ずさりしていた。顔はお面に隠れて見えなかったが、愕然とした顔がお面から透けて見えるようだった。
「と言う訳で、世にも珍しい陰陽師が三人全員この場にそろったわけだが、俺は右と左の陰陽師、こいつは陰と陽の陰陽師、まあ、鏡を作れるみたいだが……。
で、お前は何の陰陽師なんだ?」
天照は以前として驚いていて、今言ったことを聞いていない様子だった。なので俺は、月読に頼んで、天照の肩を揺らしてもらった。天照はようやく我に返った様子だった。その天照にもう一度同じ質問を問いかけた。
「お前は何の陰陽師だ?」
天照は今度こそ、質問を聞こえていていたようだったが、顎の辺りを指でかきながら、言葉に詰まっていた。
「銅の陰陽師じゃ、それ以上でもそれ以下でもない。それだけでわらわはえらいんじゃ。
……これ以上、何か聞くようなら……角ドリルじゃ。」
天照は鬼の面の角にそれぞれの手の人差し指を合わせて、こちらを攻撃するように、角を動かしていた。
……こっちも可愛い。
仮面無しも仮面ありも可愛い。どういう仕組みで、人格が変わるのか分からないが、どっちも可愛いから、どうでもいい。何の陰陽師でもどうでもいい。可愛いければそれでいい。
「まあ、いいか。じゃあ、これからどうするかだが、とりあえず、出雲組をどうにかしないといけない。
このまま、何もせずに逃げると、追い回されたりして厄介なことになるだろう。ならば、先に潰しておいた方がいいだろう。月読はもう戦えないだろうし、俺が出雲組に乗り込んで、片付けてもいいんだが、お前は戦えるのか?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた。わらわは強いぞ。」
天照は角に指を当てたまま、こちら側に突進してきた。そのまま角を寝転んだ俺の体に突き刺した。突き刺したと言っても、全く痛くない。角ドリルをを受けて、天照は全く戦力にならないなと俺は確信した。
……でも、可愛い。