銅の目の陰陽師
木が倒れこんだ衝撃で、吹き上がった砂埃が俺の顔にかかる感触で、ようやく我に返ることができた。俺は陰と陽の太極を使ったことも驚くべきことだが、さらに驚くべきことを目にした。俺は改めて月読の方を見てみると、やはり目の色が変わっていないかった。
俺はどこから質問していいやら分からなかった。すると、月読は腰の締めた帯の間に銃をしまった。俺は深呼吸をして、思考をまとめた。
「……お前は間違いなく陰と陽の陰陽師だ。それはいいんだが、その太極を使う時、なぜ銀の目を光らせない?」
「……?光らなくても、この銃を使うことができるからだよ。」
「いやいや、太極を使うとき、目は絶対に光るだろう。俺は瞬きの瞬間に太極を使って、目が光っていないように見せかけているだけで、目の色が変わる陰陽師は絶対に、太極の力を使う時に瞳の色を変わるんだよ。」
「力を使う時、目の色は変わるよ。この力以外の力を使う時にね。」
月読はそう言うと、目の色を銀色に輝かせて、右手を前に出した。俺は陰と陽の陰陽師である月読が、銀の目を使って、どれだけ凄い太極を使うのだろうと心躍らしていた。
月読は集中して、手から何かをを絞り出すようにした。すると、手のひらから小さい光の塊ようなものが出てきた。その光の塊は太陽の光を浴びて、ギラギラと輝いていた。月読はその塊を手のひらに掴み、自信満々の顔をした。
「これが銀の目の能力、鏡作りです!」
……ショボい。
「何か特別な鏡なのか?」
「普通の鏡です!」
月読は手に掴んだ鏡をある程度、こちらに見せると、地面に叩きつけた。地面に叩きつけられた鏡はクモの巣状に割れ、一部粉々に割れた。俺はその鏡の欠片を一つ拾い上げてみて、裏表を詳しく確認してみるが、何の変哲もない普通の鏡だった。
俺は自分が喉から手が出るほど欲しがっていた陰と陽の太極を月読が持っていると知って、かなり嫉妬していた。しかし、俺の右と左の太極ようなショボい太極を持っていたので、一気に親近感が湧いた。俺は嫉妬と親近感でちょうど釣り合いが取れ、落ち着くことができた。
「とってもいい太極だな。」
「だろ!」
鏡を出して無邪気に喜んでいる月読を見ていると、月読への親近感が上がってきた。俺は微笑み首をうなづかせながら、月読の背中に手を回して、肩を叩いた。月読は痛がるような、嫌がるような様子で縮こまっていた。
月読からしてみれば、急に距離を縮められてびっくりしているようだった。俺はそんなことを気にせず、月読の肩を揺らした。体に腕を回して再確認したが、かなり体格は小さい。そもそも何歳なのだろうか。
「なあ、やっぱり俺の仲間になろうぜ。」
俺は月読の体を揺らして、ウザ絡みした。月読はさらに体をこわばらせた。意外と距離をいきなり詰められると、ビビってしまうタイプなのかもしれない。俺はさらに追い打ちをかけるように、体を揺らした。俺は距離を詰め過ぎただろうかと心配になって、月読の顔を覗き込んでみると、月読は照れているようだった。
「よし、組んだ!」
月読はにんまりとしながら、胸を張ってそう言った。俺は月読の様子を昔の自分を見ているような感じがした。使えない太極を持ったために、褒められた経験がなかったのだろう。ちょろいな。
「よし、決まりだ!」
俺は月読の肩に回した手を外し、手を月読の前に出した。月読は不思議そうにその手を見ていたので、俺は月読の手を取って、無理やり握手をした。
「じゃあ、俺たちが仲間になったということで、色々とお互いの情報交換をしておきたい所だが、俺の目的と弱点の二つを伝えておきたい。
まず、俺の目的についてだ。お前が不安に思っている出雲組は、俺が後でどうにかするからいいとして、俺の目的は熊襲組だ。どうやら、熊襲組は銅の目の陰陽師を捕まえているらしい。
俺はこの金の目を受け継いだ日から、銀の目と銅の目を探してきたんだが、銀の目の情報は今まで全く手に入らなかったが、銅の目は鬼神の面を付けた女と言う情報は手に入れていたから、今日、出雲組から鬼神の面の女の情報を手に入れた時は嬉しかったよ。
俺はこの銅の目の女を仲間に入れたいと考えている。まさか今日、銀の目の陰陽師も仲間に入るとは思っていなかったから、今日は運がいい日だな。
ただ、お前を仲間に入れたことで、一つ不安が生まれたな。」
俺は月読に近づいて、静かな声で耳打ちをした。
「銅の目の陰陽師はもの凄く美人と言う噂だ。
……変な気を起こすなよ。」
俺は下心のある打算をしながら、月読を牽制した。月読は話している感じからして、下心はなさそうに見えるが、そういう男こそ女にモテる。男二人と女一人の集団の時、どちらが女に好かれるかがその集団での地位が決まってくる。
月読をよく見てみると、背が小さくて、顔は可愛い感じではあるが、どことない凛々しさとカッコよさがあり、人によっては俺よりも好かれる可能性がある。危険だ。女ならば都合の良い構図になるのだが、性別はどうしようもない。
「安心しな。僕は女を好きになる趣味はないからな。」
「……ならいいが。」
俺は疑い深い目を送りながら、とりあえず流すことにした。
「じゃあ、俺の弱点についてだ。」
俺は服をずらして、喉元に付いた大きな傷跡を見せた。そして、もう一度、月読に耳打ちをした。
「見ての通り、この喉元にざっくりと開いた切り傷のせいで、肺に穴が開いちまって、激しい運動を長いことすると、動けなくなっちまうんだ。」
俺はそのように耳打ちをした。そして、さらに耳打ちを続けた。
「だから、今から熊襲組にカチコミを仕掛けるが、お前が一人で暴れている隙に、俺が銅の目の陰陽師を見つけてくる。」
「駄目駄目。熊襲組の強さを知らないの。うちの組と肩を並べる組だよ。その大将一人を倒せっていうなら、できないことはないが、組全員を一人で相手って言うのは、いくら何でも無茶すぎないかな。」
「一回、お前が銃を使った時に、どこまでやれるのか確かめておきたい。やばくなったら、俺が助けてやるからドーンと暴れて来い。」
俺は月読の背中を平手で叩き、笑顔を送った。月読は衝撃を受けた顔をしていた。今言ったような理由もあるが、俺が銅の目の女を助けて、少しでも好かれようと言う理由が一番大きい。純粋な月読には申し訳ないが、大人は悪い人でいっぱいなんだよ。