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鏡鏡鏡鏡  作者: 恒河沙
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荒狂

 腹を裂いて死んだかと思われた素戔嗚の手がピクリと動いた。その手の動きを皮切りに、両手を折り曲げて、地面に両の手のひらを付けると、ゆっくりと体を起こした。そして、足を前に出して、胡坐あぐらをかいて座った。


 腹の周りは血で大きく汚れていたのだが、不思議なことに傷口から血が止まっていた。百歩譲って、あれだけ腹を深く裂いて、生きていたとしても、腹からの出血が止まっているのはおかしい。いや、まず、生きているという仮定がおかしい。


 俺は目の前で起こる怪奇な出来事に驚いていた。しかし、一度気を引き締め、刀を握り直した。すると、素戔嗚は両手をあげて、こちらを諭すような動作をしてきた。


「もう、いいであろう。おぬしらの勝ちだ。


 ガハハハッ、初戦が黒星とは幸先が悪い。」

 豪快な笑い声と共に、傷口のある腹を抱えて笑った。すると、体を反って笑ったことで、傷口が開いたのか、傷口から血が噴き出してきた。


「ガハハハッ、まずは傷を塞がなくてはならぬな。」

 素戔嗚はそう言うと、ざっくりと開いた腹の切り傷の上と下を手で掴むようにして、力一杯握りしめた。俺はそんなことをしたら、余計に傷が広がるのではないかと思ったが、不思議なことに腹の傷は握りしめた部分だけ塞がっていた。


 俺は夢か何かなのか疑ったが、五感がはっきりしているこの状況は現実世界だと思い直した。そのまま、素戔嗚は傷口を握りしめることで、残りの傷口を塞いでいった。素戔嗚は全ての傷口を塞ぎ終わると、腹をポンと叩いた。


「治った!」

 そんなことはないだろうと思いながら、目に映る景色はそんなことになっていた。


「我は素戔嗚、最強を追い求める戦士なり!」

 俺達は口をぽかんと開けながら、素戔嗚の言葉に耳を傾けていた。


「我は強さを極めんと、山に籠り、その山で修業をした。だが、その山のどれもが我にとっては弱かった。我が走るだけで、木々は倒され、岩は砕け、動物は踏みつぶされる。我はこの場所で居座って、強さを追い求めることはできないと考えた。


 では、強いものと戦うためにはどうすればよいか?


 答えは簡単だった。木や岩、動物を壊す我の歩みを止めることができるものを探せばいいのだと。だから、我は走った。我の歩みを止めることのできるものを見つけるために。


 そしたら、おぬしたちを見つけた。やはり、我よりも強い人間はいるのだな。おぬしたちの名前は何と申すのだ?」

 俺達は互いに目を見合わせながら、誰が先に言うか迷っていた。しょうがないので、俺から名前を言うことにした。


「俺は大和、鬼の面を被った奴が天照、そこの銃を構えている奴が月読だ。」

「なるほど、大和に天照、月読と申すか。月読と天照は聞いたことがなかったが、確か、大和と言う名前は聞いたことがある。我を打ち負かすならば、十二天将じゅうにてんしょう遠呂智おろちか大和だと思っていた。


 やはり、大和が我の歩みを止め、我を倒してきた。我もまた強くならなければならぬな。」

 俺はお前が傷口をかきむしらなければ、俺らは負けてただろうから、お前は十分俺らより強いだろうと思っていた。


「じゃあ、我は強き者をみつけるために、また走る。またぶつかった時はよろしくな。」

「ちょっと待て!せっかく俺達が勝ったんだから、一つだけ願いを聞いてくれないか?」

 俺は素戔嗚の走る速さを見込んで、あることを思いついた。俺は注連縄しめなわと鉄板を太極で取り出した。俺は注連縄を素戔嗚の胴体に括りつけ、足で鉄板を踏んだ。


「よし、天照、月読、俺に抱き着け。」

 天照は後ろに一歩下がって、俺の言葉にひいていた。


「違う、違う。もうこれ以上歩かなくてもいい方法を思いついた。とりあえず抱き着け。」

 天照は俺の意図を理解したようで、俺の胴体に抱き着いてきた。月読も同じく天照と反対側に抱き着いてきた。牛鬼につけられた脇腹の傷が痛んだが、我慢した。


「素戔嗚、そのまま、走ってくれ。」

「それがおぬしの願いなのか?よく分からぬが、走り出すぞ。」

 そう言うと、素戔嗚は先ほどの突進の構えをすると、走り出した。俺の素戔嗚とつながった注連縄は強く引っ張られた。指が引きちぎれそうなほどだったが、これからどれだけ歩くか分からないまま、二人の文句を受けるよりはましだった。

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