表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡鏡鏡鏡  作者: 恒河沙
16/24

素戔嗚 スサノオ

 理解の追い付かない急展開から、素戔嗚スサノオと名乗る男がこちらに殴りかかってきた。俺はおそらくこの男に折られたであろう刀を見つめた。根元から綺麗に折られていた。素戔嗚の腹辺りを見ると、服がぱっくりと大きく切れていた。


 多分、俺が斬り付けた時に斬れた跡だろう。体に鉄板でも仕込んでいたのだろうか。きちんと横方向に斬り付けた刀が折れてしまうなど、試しに岩を斬り付けて以来だ。俺はしょうがなく折れた刀を捨てた。


 しかし、先ほどのように斬りつけたとしても、また折れてしまうことは目に見えている。俺はまだ素戔嗚の姿が見えている内に、向かってくる素戔嗚の攻撃を横に飛んでよけた。素戔嗚の突進はとても速いが、動きが一直線なので、初動さえ見えれば、よけることは容易かった。


 横に飛んでよけることができたが、素戔嗚が横を通り過ぎたことで起こる風圧がとても強く、よろけてしまった。とりあえず、この突進をまともに受ければ、死がちらつくことは明らかだった。俺はよろけた体を立て直し、後ろを振り返った。


 振り向くと、木々が一直線に折れていて、その折れた木々の先の遥か遠くで、素戔嗚が立っていた。素戔嗚はゆっくりとこちらに振り向いた。素戔嗚は俺と目を合わせると、俺に方向を合わせて、もう一度突進の準備をした。


 俺はよけ続けていても、どうにもならないので、新しく予備の刀を出した。刃先を遠くの素戔嗚に合わせた。そして、素戔嗚が動き出す瞬間にすぐに横にずれて、刀を横に構えた。刀の柄を軽く握り、鍔に親指を当てた。


 素戔嗚が向かってきた風圧を感じながら、素戔嗚の体に刃先に当たる感触を感じた。刃先に素戔嗚の体を感じるとその体の形に合わせるように、刀を滑らせた。素戔嗚の突進を刀でまともに受けると、折れてしまうので、相手の突進の力を利用して、斬りつけた。


 だが、普通の人間なら体を真っ二つにしているだろうが、皮膚の薄皮しか切れなかった感覚しかなかった。あの引っ掛かる感覚は、人間の筋肉の硬さよりも岩の硬さの方が近しいものを感じた。


 俺が後ろを振り返って、素戔嗚の姿を確認した。すると、俺が斬りつけた腹を観察していた。腹からは滲む程度の血しか出ていなかった。


「かゆい!」

 素戔嗚はそう言うと、腹の小さな傷を自らの手でかきむしり始めた。すると、かく力が余程強かったのか、小さな傷は見る見るうちに広く、深くなっていき、滲む程度だった血は、だらだらと溢れ出るようになっていた。


 俺は素戔嗚の異常性を垣間見ながら、これは好機だと思った。俺はかくことに夢中になって、突進を止めている素戔嗚の広がった傷口なら刃が通るのではないかと考えた。俺は素戔嗚に向かって、走り出した。


 そして素戔嗚に十分近づいた所で、素戔嗚の脇腹の傷に向かって、全力で刀を突き刺した。予想通りで、傷元は他の部位よりも硬くなくずぶずぶと刀の三分の一が素戔嗚を体内に入っていった。もう少し力を入れて奥に刀を差し込みたかったが、素戔嗚が今にも攻撃してきそうにしていたので、刀を素戔嗚に刺したまま、素戔嗚から離れた。


 なぜ、わざわざ刀を抜き取らずに素戔嗚に刺したまま残したかと言うと、素戔嗚の後ろに息を潜めて近づく天照の姿が見えたからだ。ゆっくりと近づく天照は、素戔嗚に刺さっている刀の柄の頭に向かって、しならせた腕から放たれた拳を打ち込んだ。


 刀はずぶりと刺さっていき、反対側の脇腹から血濡れた刃先が飛び出していた。だが、素戔嗚はその傷に反して、ケロッとした顔をしていた。そして、そのままこちらを見て、突進の準備をし始めていた。


 俺はもう一度刀を出して、もう一度素戔嗚に刃先を合わせた。突進を覚悟した時、眩しい光が素戔嗚に刺さった刀の柄に当たった。刀は腹の内側から皮膚を切り裂いて、飛び出してきた。刀は血飛沫をまき散らしながら、くるりと回転して地面に落ちた。


 先ほどまでケロッとしていた素戔嗚も流石に口から血を吐いていた。素戔嗚は血で汚れた口元を緩ませ、笑った。


「最高だ。」


 素戔嗚はそう言って、前のめりに倒れこんだ。俺はその姿を見て、安心し、胸を撫で下ろした。素戔嗚が倒れ込むと、後ろに銃を構えた月読が立っていた。月読も天照もただ茫然としていた。


「強かった。殺さなきゃ、殺されてた。」

 俺は思いのままに言葉を吐いた。


「……いや、死んでない、まだ死体が消えていない。」

 月読がそう言ったことを聞いて、素戔嗚が倒れこんだ地面を見てみると、まだ素戔嗚の体がまだあり、手がピクリと動いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ