真夜中にて
「布団がふかふかじゃぞ。昨日の地べたとは大違いじゃ。」
天照は敷かれた布団に飛び込んで、手足をバタバタさせていた。天照の力が強いのか、家の作りが弱いのか分からないが、天照のバタバタで地震が起きていた。
「元気ねえ、天照?ちゃんだったっけ。」
「いや、すいません。食事どころか、泊まらせていただいて。」
「いいのよ。前から部屋が余っているから、このくらいなんてことないわ。それに迷惑もかけちゃったでしょう。」
「いや、迷惑をかけたのは絶対にこっちですよ。あいつが暴れなければ、あんなことにはならなかったでしょうから。」
「まあ、ゆっくりして頂戴ね。食事はあの人に言えば、いくらでも作ってもらえると思うわ。」
「奥さんは料理はしないんですか?」
「私はあの人のように、料理は上手くありませんから……。」
「そうですか。」
「もともとは私が料理を作っていたんですが、あの人と結婚してからは、あの人が作るようになりましたね。私の料理は美味しくなかったようで、あの人が作るようになってから、店が繁盛するようになりましたね。」
「じゃあ、ご主人がいないと駄目ですね。」
「そうですね。本当にいろんな意味で、大切な人です。」
女店員の八上は、お腹をさすりながら、そう言った。俺はそれを見て、これ以上話すことできなくなってしまい、言葉が詰まってしまった。その微妙な空気を感じ取ったのか、八上はこちらに笑いかけて、部屋から出て行った。
俺は八上が出て行ってからしばらくして、窓の外が暗くなっていることを確かめた。そして、服を正して、立ち上がった。
「俺は少し、外へ出かけていくから、大人しくしているんだぞ。
それと、風呂を焚いてくれているから、体を流しておくんだぞ。」
「大和は風呂に入らないの?」
「後で入る。」
俺はそう言って、部屋の戸を開けて、出て行こうとした時、あることを思いだして伝えておくことにした。
「そうだ、月読、今日の昼に教えたことで、一つ教えていないことがあった。お前みたいな陰陽師の話なんだが、お前は特殊なのかもしれないな。お前みたいに普通の人間と変わりない奴は珍しいんだよ。」
「起きるのじゃ。月読、大変じゃぞ。」
僕は体を揺らされて、眠りを妨げられた。僕は眠い目を擦って、体を起こした。
「何?」
「大変じゃ。」
「何?」
「大変なのじゃ。」
「何!」
「かわやはどこじゃ?」
「自分で探せや!」
「知らぬから聞いておるのじゃ。」
「そこらの木にでもしといたらいいじゃん。もしくは、穴掘って埋めたらいいじゃん。」
僕はそう怒って、布団にばたりと寝転んだ。しかし、天照はより強く僕の体を揺すった。僕はイライラしながら、もう一度体を起こした。
「怖いの?」
「そんなことは……ないのじゃ。」
図星だ。僕はしょうがなく立ち上がると、天照を連れて、部屋を出た。部屋を出ると、真っ暗な廊下が広がっていた。天照は僕の服をぎゅっと強く握った。僕はそれを気にせずに、暗い廊下を進んでいった。
僕は外にあるトイレの建物の場所まで移動した。天照はトイレに着くと、いち早く入った。僕は天照のトイレが終わるまで、トイレの近くまで待っていた。
辺りは真っ暗で、トイレは村の外の森の近くにあったので、森の方は余計に真っ暗だった。
しかし、そんな真っ暗な森から遠くに火のような光が見えた。僕は天照のことを置いて、その光の方へ向かっていった。
木をかき分け、森の方へ進んだ。かなり火に近づいた所で、目を凝らすと、火の明かりに照らされて、二人の人影が見えてきた。僕は詳しく見るために、さらに近づくと、一人の顔が良く見えた。その顔は昼に見た偉そうな八十神とかいう奴の顔だった。そいつは木に倒れ掛かっていて、まだぐったりとしているようだった。
そしてもう一人の顔は、鬼の面を付けていた。天照の着けている鬼の面とは違ったものだった。服は全身黒色で闇と同化していた。ただ、その男は手に火とキラキラとした刃物をいくつも持っていた。僕は腰の鳴鏑に手をかけて、いつでも戦えるようにした。
なぜなら、この黒の服の男が牛鬼だろうと思ったからだ。
しばらく投稿休みます。金曜に再開します。