8知渡子の日常
わたしの日常はくだらない。
…………これは昼休みのことだ。
「知渡子さん好きです! おれと付き合ってください!」
「あ、そう。聞かなかったことにするわ」
これがわたしなりの断り方。ごめんなさい、なんて言葉は相手に失礼だろう、だからわたしはオブラートに包んで断る。
「え? おれ諦めきれないです!」
諦めきれないか、諦めないのは良いことよ、でも無いわ。てか誰こいつ? わたしって顔と名前を覚えるの下手くそなのよね。うーん、太郎だったかしら? 小太郎かしら?
「あの、ダメですか?」
「うっさいわねぇ、今考え事してるんだから話しかけないでよ。モブキャラの分際でわたしを見れていること、それだけでも感謝しなさい」
と、わたしはわたしに告白してきたモブに言ってから教室へ戻る。告白されるなんていつものことだ。
ちょっと失礼だったかしら? でも諦めないなら仕方ないわよね、わたしならお高く断っても別にいいわよね。だってわたし最強のチート持っているし。
教室に戻れば、
「知渡子告られたんだって?」
「相手は三組の池夫なんだって? イケメンじゃん」
照子と照美はそう言ってきた。他に話す話題も無いのだろう。
「まぁね」
イケメン? 全然タイプじゃなかったんだけど。あれがイケメンか……この子たち変わっているわね。
「まぁねって、断ったの?」
「当たり前じゃない」
「ほうほう、お高い知渡子お嬢様には男子全滅か」
「知渡子、そんなんだと男子に勘違いされるよ」
「なんて?」
「知渡子は女の子にしか興味ないって」
あり得ないわね。
「そこら辺のモブにどう思われても構わないわよ」
「夜和斗の方がかっこいいか」
はぁ? そっちの方があり得ないわよ。あんな女々しくてボロ雑巾みたいな臭いのやつ。
あ、そういえば、昔の夜和斗は違かったなぁ。違かったけど変わっていないのはチートを使わないところだった。他に何か出来るわけでもないのにチートを使わない。
夜和斗は昔からバカだったなぁ。
「おーい知渡子?」
「おやおや、やっぱり夜和斗かな?」
「――あり得ないわね」
わたしの日常と夜和斗の日常は全然違う。あいつは友達に恵まれなかったし学校へ来なくなったし……ほとんど失った。今では大災禍の日に拾った愛犬のポチくらいしか守るものなんてないだろう。
わたしと夜和斗を比べるなら別の生き物という感じだ。
わたしの日常は普通の女子高生。