64キス
夜和斗視点
大災禍の日。両親が魔王に殺された日。その日ぼくは何をしていたのか……
十年前のあの日……
「ぼくは魔王を倒すよ!」
「はぁ? わたしが魔王を倒すのよ!」
ぼくは知渡子と一緒に公園で遊んでいた。
「チートも無い夜和斗は魔王を倒せないわよ」
「チートが無くても魔王は倒せるよ」
「わたし凄いチート持ってるんだから!」
「どんなチート?」
「感染って言ってね、わたしのチートをみんなに移すことが出来るの」
「え? それってぼくにも移せるの?」
「出来るわよ」
「じゃあやってみてよ」
「嫌よ」
「どうして?」
「だって、夜和斗に感染させたら夜和斗のくせに強くなっちゃうでしょ」
「いいじゃないか別に感染させるくらい」
「じゃあ、夜和斗は特別に感染させてあげる」
と言って、知渡子はぼくにキスをしてきた。唇と唇が触れ合った。
その時だった、ぼくの内側にもう一つの人格が現れたのは。
なんで今まで忘れていたのか分からない。知渡子がぼくの内側の人格を覚醒させたんだ。
知渡子が魔王の人格を覚醒させたんだ。
ぼくの両親は魔王の人格を抑えるために犠牲になった。なんで今まで忘れていたんだ……、自分が魔王の血族だということを、どうして忘れていたんだ。
<気が付いたところでもう遅い。日堂知渡子はわたしの器だ! わたしが復活するための器なのよ!>魔王はぼくの中で叫んだ。
そして現在、
知渡子は時計を見て、「時間がない」と囁いた。