58追放されたヒーラー
知渡子視点
「知渡子、ヒーラーになりたいってヒトが来たよ」
「今度はまともなヒーラーなんでしょうね?」
「うん、上級冒険者のパーティーから追い出された子らしいよ」
「え!? 上級冒険者!? 追放系の?」
いや待て、焦るな知渡子、面接をしてから決めよう。
「わたしのところに通して」わたしはマヒトに命令した。
「失礼します」
《名前:ヒラミ チート:瞬間回復》
「ヒラミさんね、どうぞ座って」
「はい……」
元気ないわねぇ。本当に大丈夫かしら?
「話は少し聞かせてもらったわ。あなた上級冒険者のパーティーにいたのよね?」
「はい、もう昔のことですけど……」
「その上級冒険者のパーティーにいたのにどうして追放されたの?」
「わたしが役立たずのヒーラーだからですかね?」
疑問形かい。てか高速回復系のヒーラーで役立たずなんていないと思うけど。
「どんな点で役立たずだったの?」
「前線に出れないヒーラーだからって言われました……」
「ヒーラーが前線に出る? そんなことってあるの?」
「あります。上級冒険者のパーティーに入るヒーラーは前線でも動けるチートを持っていて、その、わたし持っていないんです、前線で活躍できるチートを」
「へぇー上級冒険者って変わっているわね。ヒーラーにも火力出してもらうとか大変でしょ」
「最初はそれでも良いって言ってくれたんですけど、徐々にわたしへの当たりが強くなっていって、それで……辞めさせられたって感じです」
可哀想に、まだわたしより若いでしょうに。
「あなた歳いくつ?」
「十五です」
あら、わたしより二つ下か。本当に可哀想な子ね、冒険者になったってことは、親は大災禍で亡くなっているのだろう。
「冒険者になったのはいつ頃なの?」
「五つの時です。最初にいたパーティーがわたしを冒険者にスカウトしてくれて、それで簡単に冒険者になれました。その頃には父も母も大災禍で亡くなっていたので、いい機会なのかなと。学校に通う道もあったと思いますけど、わたしは冒険者の道をえらんだんです」
「最初のパーティーがあなたを追放したの?」
「いえ、最初のパーティーは本当に良いパーティーでした。ですが、わたしが十四の時に、わたし以外が迷宮の冒険で死んでしまいました」
ほう、迷宮、つまりはダンジョンか。
「その迷宮って上級冒険者で挑めるの?」
「いえ、迷宮はマスタークラスが三人いなくては挑めない場所です」
へぇーマスタークラスの冒険者か。ヒラミは凄い冒険に出ていたんだ。
「そっか、そこで別れて最近まで酷いパーティーにいたってわけか」
「はい……」
「うーん、わたしたちのパーティーに入ったらヒーラーの仕事だけしてもらうってわけにもいかないのよね――でも前線には出さない」
「あの、ヒーラー以外の仕事ってどんな仕事ですか?」
「うーん、ギルドの掃除とか? 洗濯とか? お皿洗いとか? 交代でやる感じね」
「え、そんな仕事でいいんですか?」
「そりゃあ冒険に出ない日もあるからね、休みの時はゆっくりするわよ」
わたしは続けて、
「どう? わたしたちのパーティーに入る?」
「入ってみたいです」
「そんじゃま、ヒラミ、わたしたちのパーティーへようこそ」
ヒラミとの出会いは普通だった。普通なのに、異常な冒険がわたしたちを待っていた。