5目の前の現実
墓地に到着したぼくは花束をお墓にユリの花を一本、菊の花を一本ずつ置いていった。
このお墓は大災禍で亡くなった人のために作られたお墓だ。
棺桶の中には骨も無ければ魂も無い。空っぽの棺桶だけが地面の下にある。なにも難しい表現ではない、そのままの表現だ。
「お父さんお母さん、夜和斗は元気にやっています」
と、挨拶済ませたぼくは家に帰ろうとした。
「まったく、湿っぽいわね」
そう言ったのは知渡子だった。変わらない佇まいでぼくを見てくる。
両親への墓参りを済ませたのはぼくだけではなかった。
彼女もまた大災禍で両親を亡くした一人。
境遇は似ているけれど性格は全くの別者のぼくたち。
「あんた、悔しくないわけ?」
「え?」
「両親を殺されて悔しくないのかって訊いたのよ!」
「別に、ぼくは悔しくないよ」
「嘘つき。じゃあなんでこんな場所で湿っぽくなってるわけ? あんた一時間も突っ立ってたのよ、バカじゃないの」
(バカだから突っ立ってたんだよ)とでも言えばぼくを解放してくれるのか? いいや、知渡子はそんな言葉じゃ開放してくれない。
「ぼくが悔しくないのは本当だよ。悔しいのは知渡子だ」
「はぁ? なにわたしを分かった気になっているの? キモいんだけど」
キモい。他の同級生にも言われているから傷つきはしない。
誰が誰をキモがっていてもいいじゃないか。
「知渡子もぼくと同じでキモいじゃないか。この小さい村で友達がいないのは君くらいだ」
「友達がいないくらいでキモがられるなら友達なんていない方がいいじゃない」
また口喧嘩になる。いつもそうだ、無駄な言い合いで喧嘩になる。それで知渡子がチートを使ってぼくをいじめる。
何も変わっていない。あの時から何も変わっていない。
「ぼくたちは十七だ。もうそろそろ大人になった方がいいと思う」
「はぁ? あんたなんかに言われたくないわよ! この穢れた血め!」
知渡子の言葉にぼくは何も言い返さなかった。
ぼくたちはもう少し大人にならなければならないんだ。何かを諦めて前を向くしかないんだ。
と、ぼくは仕事を探しに向かった。
チートを使える世の中で、チートを使うことを諦めたぼくは前を向くしかない。