48覚醒
夜和斗視点
ぼくはカエル女に怒りを覚える。
――思い出させるな、思い出させるな、思い出させるな!
ぼくの両親は聖戦で亡くなったんだ。魔王そのものは関係ない。思い出すな、思い出すな。
「世輪背川夜和斗! あんたの冒険はここで終わりよ!」
と、カエル女はぼくに攻撃をしてきた。
ぼくは真正面からモロにくらった。
「がはっ!」
領域乖離の内側なのにどうしてぼくより俊敏に動けるんだ……カエル女は世界最弱になっているはずなのにどうして。
ぼくのカラダは地面に崩れた。
痛い、こんな痛いのは初めて……初めてじゃない。あいつが、魔王がぼくの両親を殺した時の痛みに比べれば全然痛くない。
ぼくは立つ。ただ目の前の敵を倒すために。
「まだ立つの? 止めておいた方がいいわよ」
「ぼくは……英雄になるんだ」
「あんたは英雄にはなれないよ、ワタシ程度に苦戦しているならまず英雄にはなれない」
「領域武装――其之一、神武闘錬」
ぼくの武器はカエル女の持つ武器より強くなる――もしモンスターが装備扱いならこれで終わりだ。
「ふっ、まだ諦めないの? 無駄よ」
と、ぼくは痺れナイフは折られるとともに壁に激突した。
無理か……今回はどう考えても相手がぼくより強い。領域内でもこんなにも差があるのか……。
「あんたは最後に残しておいてあげる」
と、カエル女は知渡子の方を向いた。
「やめろ! ぼくの仲間に手を出すな!」
「仲間ねぇ」
マヒトとポチが知渡子の前に入る。
「殺すなら、知渡子の前にわたしを殺せ!」
「ワン!」
「やめろマヒト! 君は冒険者じゃない、関係ない! 逃げるんだ!」
「うるさいハエねぇ、邪魔よ!」
と、カエル女はマヒトとポチを壁に叩きつけた。
「可哀想なぼくちゃんねぇ。仲間の誰一人守れないなんて。それで英雄になるなんて言うし笑っちゃうわ」
このまま死ぬのか? 誰も守れないまま?
魔王を倒すんじゃなかったのか?
知渡子、マヒト、ポチ。
ぼくは――
――ぼくの内側が黒く染まる。
(手伝ってあげようか? 夜和斗)ぼくの内側で誰かが囁く。
誰だ。
(わたしはあなた、あなたはわたし)また囁かれる。
誰なんだ。
(仲間を助けたいならわたしが助けてあげるよ)
誰でもいい、助けてくれ。もう失いたくないんだ!
(いいよ、助けてあげる、その代わりにカラダを貸してね)
――<ぼく?>は立ちあがった――
「深淵を覗く時、深淵はわたしのものとなる……領域虚無――転開雅ノ型、禍巖災斬」
「ヒッ、ぎゃああああああ!」
カエル女の両腕はみじん切りになった。
「腕! あたしの腕があああぁぁ!」
「ええと、こういう時なんて言うんだっけ? ああそうそう――『チートの使い方を教えてやる』だったわね」
「あたしの腕が! 腕がああああぁぁ!」
「うるさいハエねぇ、いやカエルか――死になさい」と、ぼくの中の<ぼく? いや彼女>は言う。
次の瞬間カエル女はバラバラになった。
「それにしても可愛い器ね」
と言って、<ぼく=彼女>は気絶している知渡子の顔を触った。
誰なんだ? ぼくの内側に住むこの感情は、この住人は何なんだ?
「わたしのカラダはっと、おぉ、男か! まだガキなのになかなかのもんもってんじゃない」
「聞いている? わたしの中のぼくちゃん」とひとり芝居のように言う<ぼく=彼女>。
<ぼく=彼女>は続けて、
「仲間を助けたご褒美にさ、また出てきてもいい?」
ダメに決まっているだろ。
「――えぇ、ま、勝手に出てくるけど」
そして<ぼく=彼女>はぼくの内へと帰っていった。
今日のぼくはおかしい。
ぼくは知渡子とマヒトとポチを抱えて地下を出た。




