40攻略法
知渡子視点
迷いの森にいたダサい女の名前はマヨイというらしい。
「わたし迷いの森に入って迷っちゃって、もう三年くらい迷いの森で暮らしているの。でもわたしの居場所はここなんだって分かったの」
マジか。サバイバルスキル高いわね。わたしの仲間にしようかしら?
「あの、他の冒険者の方々に出会ったりしませんでしたか?」とマヒト。
「ここで暮らして、わたしが出会った冒険者なんてあなたたちくらいよ」
めっちゃ使えねぇ女出た。本物の天然記念物なのかも。
「あの、話は変わりますが――森林地帯を抜ける方法を聞きたいのですけど……」
「それなら、ここに来る前の町にギルドクエストがあったでしょ、そのギルドクエストをクリアすれば新しい道は見えてくるんじゃない?」
「その根拠は? と言うかあんたギルクエクリアしたことあんの?」とわたし。
「クリアしたことありますよ」
『あるんかい!』とわたしたちは驚いた。
このわたしですら平原地帯のギルクエをクリアしたことないのにこののほほーんとした天然記念物が? あり得ないわね。
「どうやってクリアしたんですか? というかクリアしたのに迷いの森で迷っているんですか?」
とマヒトは訊く。
わたしといえば両耳を塞いで、
「マヒト、聞いちゃいけないわ!」
聞きたくない聞きたくない聞きたくない、絶対に他人の力を借りてギルクエをクリアしたくない! ギルクエだけはゼロのパーティーだけで乗り切るしかないのよ。
「あ、今の無しで」
「でも気になるなぁ」と夜和斗は言う。
そりゃわたしも気になる。気になって睡眠不足になりそうだ。
「ならヒントくらいならいいんじゃない?」とサバイバル女は人差し指を立てた。
「まあヒントくらいならね……知渡子」
ヒントなら仕方ないわね。この迷いの森の魔女も見つけたことだし、まぁ見つけたのは夜和斗なんだけど。
わたしは頷いた。
「じゃあ言うわよ、一回しか言わないからしっかり聴いているのよ」
と一呼吸おいて、
「――生麦生米生卵の敵意」
ああ、そういうことね。敵意むき出しだとモンスターのリスポーンは早くなるのね。チートを使ってモンスターの処理をしても無駄ってことか。
「てきい?」
「てきー?」
と夜和斗とマヒトは分かっていないらしい。可愛いおバカちゃんたちだ。
「てきー!」「てきい!」『てきい!』とふたりは頭がおかしくなったのか騒ぎ始めた。
「うっさいわよおバカ共!」
『ごめんなさい』
「というか、知渡子は分かったの?」と夜和斗。
「当たり前でしょ! わたしを誰だと思っているの? 日堂知渡子よ!」
「え!? あなた日堂家のお人だったの?」
サバイバル女は驚いた様子で訊いてきた。
「あ? それが何?」
「いえ、日堂知歳さんはわたしが道に迷っているところに通りがかったの」
「へー、それで」
わたしのお母さんが何かしたのかしら?
「『迷いの森にあなたの道はある』と言われたの」
「へー、それで」
「わたし仙女になったの!」
「は?」
「大自然に囲まれて初めて分かったの! ここがわたしの居場所だって!」
この森が居場所? わたしは焼き払ってやりたいと思っているんだけど。
「一体何年前の話してるのよ、わたしのお母さんが死んだのは十年前よ」
「え? 三年前には生きていたわ」
何言ってるんだこのサバイバル女、頭でも打って記憶なくしたんじゃない?
「まぁどうでもいいわ、今はギルクエをクリアするのみ」
道は拓けた、あとは全力疾走よ知渡子!