4目指していたもの、でも……
魔王を倒したい。昔のぼくはそう言って勇者を目指していた。目指していたけど、いつからか普通の暮らしをすることが夢になっていた。
あの頃の情熱は、今では欠片も残っていない。
チートの溢れる世界で普通に暮らせればどれだけ幸せなのか。チートを使えば幸せになれるのか……。
と、感傷に浸るぼくは珍しく町を訪れていた。そこで、どこかの宗教団体が何かを言っているのを耳にした。
「チートはチート神に与えられた全能の力だ! 軽んじで使うことは許さない! 常に全力のチートを使いなさい!」
宗教もチートに支配されている。てかチート神ってなんだ? 神とはチートを使う者ではないのか? チートに使われているのが神なのか? よく分らないな。
「我らチート教団はチートの全知全能の力を心から信じている! さあ、皆さんもチート教団へ入団してチートの深淵を覗きましょう!」
「きゃー! わたし入るわ!」「おれも入団したい!」「おれもおれも!」「わたしもー!」
凄い宗教だ。お金が紙切れの世界で何を手にしたいんだ……地位と名声か。
宗教か。数あるチート宗教団体って宗教戦争ばかりしているクズじゃないか。どうしてそんなクソ宗教に入りたいんだ?
と、ぼくは今回の目的地に到着した――花屋さんだ。
「ごめんくださーい」とぼく。
「はーい」
声がすると奥の方から女性が出てきた。ミランダさんだ。綺麗だし可愛いし優しい、文句なしのチート美女だ。
「あら、夜和斗君久しぶりじゃない」
「お久しぶりですミランダさん」
「今日も良いチート日和ね」
「そ……そうですねチート日和です」
うん、ミランダさんもまたチートに支配された女性だ。もしかしてその容姿ってチートを使った容姿だろうか? いやいや、そんなことあり得ない……でも10年前から歳を取ってないような気がする。
「そういえば、今日知渡子ちゃんが来てたのよ」
「知渡子が……」
「そう、なんか暗い表情だったわよ」
そっか。まだあの時のこと気にしているのか。
「ありがとうございました。また来てくださいね」
ぼくは菊とユリの花を両手いっぱいに買った。
そしてぼくは町を出る。
花を買うだけで町に来た、ただそれだけでも、今日は花を買わなくてはならない日だ。
チートが良い世界を創るわけじゃない。人間が良い世界を創らなくちゃいけないんだ。