38迷いの森の謎
夜和斗視点
「どうなってんのよ! この森は! 攻略した暁には絶対に燃やすから覚悟しておきなさい!」
そんなことを言う知渡子。
最初は些細な出来事だ――
「――ということで、最初の難関……森林地帯の攻略を始めるわよ!」
そう言いだしたのは知渡子だった。
「はい! 隊長! 質問があります!」
「何かねペットの夜和斗隊員」
「次の町に行くには森林地帯を攻略するしか方法がないらしいですけど、一体どんな考えがあって森林地帯の冒険に挑んでいるのですか?」
「よい質問だよ夜和斗隊員。それはね――真っすぐ突き進むのみだ!」
どうしよう、知渡子がバカになってしまった。というかもう茶番はいいか。
「【森林地帯には謎がある】そうマスニさんから聞いたんだよ。その謎を解かないと進めないよ」
「あゝ夜和斗、よわとよわと、そんなこと一つの情報にすぎないのだよ」
「でもマスニさんの情報なら信用できるんじゃないの?」
「マスニの情報は無料よ、お金がかかっていないぶん嘘が濃厚なのよ」
マスニさんを脅して情報料無料にしたのはどこのどいつだ? 知渡子だろ。じゃあ恨んでいるマスニさんは嘘をつくか。そりゃあ恨んでいるなら嘘の一つや二つつきたくなる。
「ここは迷いの森だよ。方位磁針も使えないし太陽の光も届かない迷いの森だ」
「それが何?」
「何度も言うけど、ぼくたちは来た道を引き返している」
これじゃあまた町に戻る。
ぼくがそんなことを考えていると、光が差し込んできた。
「抜けたわ! ついにわたしたちは森を抜けたのよ!」
知渡子は言って光の差す方へ走ったが、暗い表情でぼくたちの方へと戻ってきた。ぬか喜びだ。
「わたしたちの冒険はまだ続くわよ!」
どうせ始まりの町に戻ってきたのだろう。
「知渡子、今日のところはギルドへ戻ろう。森林探索をするならもっと情報が欲しいんだ」
「うーん、マヒトはわたしと来るわよね?」
「いいや、わたしもギルドに戻りたいな……なんて思ったり。やっぱり三人と一匹で次の町を目指したいかな? なんて思ったり」
マヒトは場の空気に流されないようになってきた。良い傾向だ。
「うーん、分かったわよ! このクソ森め、いつかチートで焼き払う」
と、知渡子は諦めてギルドへ戻ることにした。
「もう! 今日は時間の無駄だったわ! 何よ森林地帯の謎って、冒険しているわたしたちの方が謎みたいじゃない!」
プンスカプンスカと知渡子は愚痴っている。その愚痴を聞くぼくとマヒトは黙っているしかない。
「おいマスニ! テメェ嘘ついたのか? あん? コラあぁ!」
「いいえ、そんな、知渡子の姐さんに嘘なぞつくわけがありません」
「じゃあ一杯奢れや、オレンジジュースをよう!」
なんか今日の知渡子めんどくさいなぁ。キャラ崩壊してない?
マスニさんは知渡子に奢った。
今日の知渡子、見ているこっちが恥ずかしくなるんだけど。なんか酒癖悪いおっさんみたいでやだなぁ。
「それで、夜和斗さん、今日の収穫はありましたか?」とマスニ。
「それが何も、ただ迷いの森を歩いただけでして」
「迷いの森には魔女がいると聞きます。なのでその魔女の居場所を突き止めるところから始めてみてはいかがでしょう?」
それ最初から言ってよマスニさん。おかげで知渡子がアホになったじゃないか。
「おいマスニ! テメェ殺すぞ?」知渡子はキレていた。
マスニさんは知渡子にもう一杯オレンジジュースを奢った。
「わたしたちの冒険篇って何なのかしら? 全然進まないどころかギルドクエストに夢中になっているし、マヒトを闇ギルドから連れ出すし、なんか冒険っぽくないのよねぇ」
「まあ確かにね。でもぼくたちは強くなっているよ」
「このままじゃ最初の町でレベルカンストしちゃうわよ」
と、ぼくが隣を見ればマヒトは眠たそうにコクコクと頭を揺らしていた。
「今日はもう休もうか」とぼく。
「明日は必ず前に進むんだから、ちゃんと寝ておきなさい」
と、マヒトをおんぶする知渡子はちょっとお高い宿屋へ、ぼくとポチは安い宿屋へと向かった。
森林地帯にいると聞く魔女か……明日は今日よりも良い冒険ができたらいいな。