36知渡子の憂鬱
知渡子視点
「まさかマヒトが女の子だったなんてねぇ、まぁあんまり驚きはしないけどね」
と、わたしはマヒトのほっぺを人差し指でつんつんした。
「わたしより肌綺麗じゃない」鍛冶師のくせにやるわねこの子。
「あははっ、知渡子の肌の方が綺麗だよ」
マヒトはよく笑うようになった。
あんな闇ギルドに何年もいたのなら笑顔が消えて当然だ。でも今は違う。本当によく笑うようになった。
「ねぇ夜和斗、わたしと組手しよ」とマヒト。
ぼくという一人称からわたしに変わったのはなぜなのか? わたしには分からない。たぶん、打ち解けてきている証なのだろう。
でもちょっと夜和斗にべたべたしすぎじゃない? 夜和斗はわたしのペットなのに。
「マヒト、わたしとも組手をしましょ」
と、組手が終わる。今日もたくさん働いたしたくさん動いた。
「はぁ疲れた。夜和斗、お水持ってきて」とわたし。
「えぇぼくが? 自分で取りに行きなよ」
「あんたはわたしのペットでしょ、言うこと聞きなさい」
「あ、わたし持ってくるよ」とマヒトは井戸の方へ駆けていった。
もう! 夜和斗にやらせたかったのに!
なぜかわたしはもやもやしている。この感情は何なのだろう。
「はぁ」きっと月の物よ。
このイライラはきっとそう。
「はい知渡子、お水汲んできたよ」
「ありがとうマヒト」本当にマヒトは良い子だ。
わたしはマヒトの頭をなでなでした。
わたしこんな妹が欲しかったんだよなぁ。そうだ、今日からマヒトをわたしの妹にしてやろう。
「そういえば、マヒトのチートの【鍛錬心】ってどんなのなの?」夜和斗は訊いた。
わたしも気になっていたことだ。鍛錬心とはいったいどんなチートなのか。
「わたしのチートは、武器を鍛えれば鍛えるほどその武器にステータス上昇や武器スキルが付与されるってものなんだよ。持ち主と武器との絆が深ければ深いほど強い武器を鍛えられる」
ほんと? めっちゃ強いチートじゃない。闇ギルドはバカね、マヒトを鍛冶師にしないで荷物持ちなんかさせてほんとバカ。
「そんな凄いチートだったのか」と夜和斗は感心している。
わたしのチートも凄いんだから、わたしも褒めなさいよ。
「でも、不発が多いし運任せ。何より武器に嫌われているとバッドステータスのスキルが付与されたりするから、まさに諸刃の剣なんだよ」
親密度って……武器にカルマシステムがあるの? 凄いわねこの世界。
「え、あの、ぼく武器に嫌われていたりする?」
「大丈夫だよ、正規ギルドのヒトはほとんど武器に嫌われていないから」
「え、じゃあわたしは?」とわたしは日頃の行いを反省するように訊いた。
いつもいつも乱暴に使っていてごめんなさい、どうか堪忍してください。
「あぁ、知渡子の武器は変わっていて、なんかもっと乱暴に扱ってほしい感じかな? うん、もっと痛めつけてって感じの……」
それってわたしの武器たちみんなドの付くマゾヒストじゃない。なんか嫌だな、聞かなきゃよかった。
「あはは……」とわたし。
「いいなぁ、みんないろいろなチートを持っていて」と夜和斗。
「そういえば夜和斗、あなたも新しいチート使ってたじゃない。見せなさいよ」
「え、いや、ぼくのチートは何でもかんでも条件付きだからそんな簡単に見せられないよ」
『どんな条件?』と、わたしとマヒトは訊く。
気になる、気になり過ぎて今日眠れないかも。
「いやぁ、今日は良い天気だなぁって感じの条件だよ……」
嘘だ。夜和斗は嘘を吐くのが下手だ。すぐ顔に出る。
「天気ですか、それは随分と優柔不断なチートですね……女垂らしみたいな」
「あはは……優柔不断と言えばそうかも。でも女垂らしではないよ」
「本当ですか夜和斗先輩」
そう言うと、マヒトは夜和斗の腕に引っ付いた。あざといわねマヒト。
「女垂らしなんて滅相もない!」
「ならよかった! わたし夜和斗のこと好きだから」
「えぇ! あ、まあぼくもマヒトのこと好きだよ」
と、イチャイチャする夜和斗とマヒト。絶対にこのふたりの間にある好きって意味が違うと思う。
わたしにもカルマシステム追加するべきだと思う。そう思った今日この頃でした。