34叫びよ届け
ぼくは夜和斗のパーティーと一緒に草原地帯のギルドクエストに挑んでいた。
最前線で戦うふたりは他のパーティーよりも目立っていた。そのせいと言うかなんというか、モンスターのヘイトを集めてしまっていた。
「薙刀、耐久力直したよ!」「刀、刃こぼれ直したよ!」
と、ぼくは鍛冶スキルでふたりの武器をとっかえひっかえと、打っていた。
夜和斗の飼い犬のポチも鋼や鉄を運んできてくれるから大助かりだ。
「知渡子! コア的な物は見つけられた?」
「見てる暇なんてない! 流石にこの量相手じゃ手を抜いてられないわよ!」
ゾンビの大群のように押し寄せるモンスターたちにふたりは善戦している。
ぼくももっと早く武器を鍛えなくちゃ。
「マヒト! 次の武器の準備頼むわよ!」
「任せて!」
そして、ギルドクエスト終了時間だ。
平原地帯はモンスターのリスポーンが無くなり、静けさを取り戻した。
『疲れたぁ!』
と、寝転ぶ夜和斗と知渡子、その近くでぼくも寝転んだ。
ついさっきまで戦闘があったのにも関わらず、良い風が吹いている。
気持ちよくてこのまま眠りそうだ。
「今日のギルクエは良かったね」と夜和斗。
「そうね、でもまだまだ火力が足りていないって感じ」
「うん、武器の替えは四本あるけど、まだまだ足りない。知渡子も自分の武器を二、三本増やしてみたら?」
「お金が無いのよ。わたしの取り分はほとんがギルドの借金返済にあててるから」
と、ぼくはこの時、本物の冒険者の会話を初めて耳にした。
これが本物の冒険者だ。夜和斗と知渡子は勇者に相応しい冒険者だ。
「ねぇマヒト、あなたはどうだった?」
「え?」
「さっきのギルクエのことよ。初めてじゃないでしょ? パーティー組んでギルクエするの」
「あ、ぼくは――」
言おうとした直後、
「マヒト、聞いたぞ。正規ギルドの連中とパーティーを組んだんだって?」
と、ぼくの知っている名無しモブ男は言ってくる。ヤバい、裏ギルドにいたこと言われる。
どうしよう、どうしよう。夜和斗と知渡子に嫌われる。
ぼくの鼓動は早まっていた。
「お前の性格だ、どうせ断れなかったんだろ? な、マヒトちゃん」
「何よあんた――あ、もしかしてマヒトに呆れられたパーティーのゴミね」
「おうおうお嬢ちゃん言ってくれるねぇ――マヒトは裏ギルドでパシリに使われてた腰抜けだぞ」
「なぁマヒト、帰ってこいよ。と言うか、お前は闇ギルドの一員なんだからもう抜け出せねぇんだよな」
笑い声をあげる名無しモブ男とその仲間たち。
「…………」ぼくは何も言えなかった。
「マヒト……」と夜和斗。
ごめん夜和斗、知渡子。ぼくは君たちの優しさに甘えていた、鍛冶師として頼ってくれることにぼくは誇りを感じた。
ぼくは持っていたナイフを知渡子と夜和斗に向けて構えた。
「ごめん――ぼくは君たちふたりのどちらかを殺さなくちゃいけないんだ!」
でもぼくには出来ないよ。ぼくが殺された方がいいんだ。
「ほう、良いねぇマヒト、ヒトを殺すところまで行ったらもう帰れねぇよな、闇ギルドっていう帰る場所に感謝しなくちゃな」
ドクンドクン。ぼくの鼓動はまた早まる。上限がないほどに早まる。
「闇ギルドって本当なの?」と知渡子。
「うん、闇ギルドにいたのは事実だ、そしてまだぼくは在籍している」
「――じゃあマヒト、わたしたちのギルドに来なさいよ。裏ギルドよりも楽しいわよ。バカな奴らしかいないけど、わたしは気に入っているの」
知渡子は空気を読んでくれなかった。
「…………」ぼくは何も言えなかった。本当は君たちと一緒にいたい、君たちのギルドの人たちとバカ騒ぎしたい。
でもぼくはダメなんだ、ぼくが生きていればまたあいつが命令してくる。
「ヒーローごっこは終わりだぜ。なぁマヒトちゃん帰ろうか」
名無しモブ男はぼくの太ももを触ってきたと思ったら、次にぼくのほっぺを舐めてきた。とてつもなく不愉快だ。
「マヒトを放せ!」と夜和斗は叫んで「ぼくたちのギルドに帰ろう、マヒト!」手を差し伸べてきた。
「ぼくは……」答えが出せない。
「来い! マヒト! 君はそんな場所にいちゃいけない!」
「ぼくは……」何も言わない方がいいんだ、ぼくは罪人だから、このまま死んだ方がいいんだ。
「暴力の武器は作らないんじゃなかったのか! 魔王を倒せる武器を打ちたいんじゃないのか!」
そうだ。ぼくが打ちたいのは平和の武器だ。誰かを傷つけるような武器じゃなくて、誰かを守る武器を打ちたいんだ。
「はっ、魔王を倒す武器? お前は荷物持ちにしか使えない木偶の棒だろ。まあちっとは鉄打ちをできるがな、ははははっ」
「おいおい、マヒトをイジメるなよ。まだ十六の女の子だ」
「なあ言ってみろマヒト――『わたしは荷物持ちです』ってよ」
「わたしは……」
わたしは悔しかった。
「どうしたマヒト? 聴こえねぇぞ!」
わたしはモブ男に髪を掴まれた。
「痛い!」
昔から変わらない。良いパーティーに巡り合えたと思ったらこれだ。助けてと言っても助けてくれない――多分夜和斗も助けてくれない。
「痛いじゃねぇだろ!」
「ほら! 言ってみろ!」
「わたしを助けて――夜和斗!」
わたしは叫んだ。今までにないくらい大きな声で、両親を失った時の悲しみ以上の声音を上げた。
「チート領域展開!」夜和斗のチートだ。
「領域武装――其之一、神武闘錬」
夜和斗のチートがわたしたちを包み込んだ。