33マヒト
マヒト視点
――これは、ぼくがまだ夜和斗のパーティーに入る前のこと――
恐る恐る清浄チート教団の教会へ入ったぼくは、きょろきょろと落ち着きなく周りを見ていた。
「我々清浄チート教団はチートの真理を極めるべく日々精進している! 汝、隣人のチートを愛し、己のチートを愛すべし! チートによるチートのためのチート、それ則ちチート!」
えぇ、チートしか言ってないし、何言ってるのか分からないよ。どういう意味なの?
「それではみなさん、良いチート日和を」
「……良きチート日和を」なんだかヤバいところに来ちゃったな。
「きみきみ」
「え、ぼくですか?」
「そうだ、きみだきみ」
変なヒトに絡まれてしまった。
「あの、えーと、どうやってステータスを隠しているんですか?」
「そんなことはどうでもいい」
ええ、どうでもいいのか? ステータス隠せるって凄いけど。というか周りの人全然気にしてないし、このヒト何者?
「それで、何か?」
「わたしはザコという者だ」
「はぁ、どうもザコさん」
「それでだな、マジトくん」
「ぼくマヒトです」
「世界は危機に陥っているのだ。近い将来、魔王よりも厄介な人物に世界は飲み込まれる」
ぼくはザコという人物から話を聞いた。
「反チート組織?」
「そう、我々はケンタテと呼ばれる組織だ。君もチートなんて捨ててこちら側に来ないか?」
ぼくは誘われたら断れない性質だ。
「はい……構いませんけど」
「じゃあ最初の仕事をしてもらおう――マヒト、ゼロというパーティーに入り、日堂知渡子を殺せ」
「こ、殺す!?」
どういうこと、殺すってヒトを死に至らしめる行為だよね? そんな簡単に殺すとか言っちゃっていいの?
「殺すのは世輪背川夜和斗でも構わないが、優先順位的には日堂知渡子だ」
「あの……ヒトを殺すなんてぼくにはできません」
「――マヒト、どちらか一方を殺せばば闇ギルドから足を洗えるんだよ、君の汚い足跡が完全に消えるんだ」
え、どうしてぼくが闇ギルドにいると知っているの……。
「ケンタテの上層メンバーなら情報など簡単に手に入るんだよ」
闇ギルドとは関わりたくない。でも、ヒトを殺すなんてできないよ。
「日堂知渡子か世輪背川夜和斗を殺せばいいだけだ。父親と母親の仇を討ちたいなら殺せ」
「ぼくの両親は大災禍で死んだんだ、その日堂知渡子も世輪背川夜和斗も関係ない。全部魔王の所為だ」
「関係があるとしたら?」
「――え?」
「これは憶測にすぎないが、日堂知渡子は魔王に繋がる何かを持っている。そして、世輪背川夜和斗は神の領域の先の先まで見ている」
「その確証はありませんよね?」
「確かにない。だが、このふたりに共通するものは――とある人物との関係を意味している」
「とある人物?」
「清浄チート教団の教祖だ。奴は神の領域の先の先まで見れると聞くし、アンチチートを破る手段を持っていると聞く」
チートを使うのは普通のことだ、世界共通でチートは使われている。なのにどうして反チート組織はチートを嫌うんだ? 自分たちもチートを使うのにどうして教団と仲良くできないんだ……。
「疑問に思うことは沢山あるだろう、矛盾点も多い」と、ザコはぼくの持つ聖書を破いて「清浄にするのはわたしたちの方だ」
ぼくは息を吞むことしかできなかった。
「これを聞いてしまった以上君の命も危うい。どうか穏便に」
と、ぼくの前からザコは消えた。
どうしていつもこうなるんだ……。
ただわたしは、仲間が欲しかっただけなんだ。
ひとりが寂しかったから仲間が欲しかった……でもどうしてこうなっちゃうのかな。