30残酷な世界
マヒト視点
――マヒトは悩んでいた――
これはギルドクエストを受けた日。
ぼくのような木偶の棒に話しかけてきたのは、
「ぼくとパーティーを組んでみない?」夜和斗さんというヒトだった。
「ごめんなさい」とぼく。
パーティーに誘われたのに断ってしまった。
闇ギルドと縁を切れる絶好の機会だったのに……はぁ、やってしまった。でも、夜和斗さんに迷惑かけなくてよかったかな。
それにしても良いヒトそうだったなぁ。あの人のパーティーに入りたいなぁ。
「はぁ……もう遅いか」
「何が遅いんだって? マヒト!」
「もしかして俺たちの足が遅いってか? ギルドクエストなんざ前線にいるやる気のある奴らだけで十分だってのに、俺たちに働かせようってか?」
「やめろやめろ、荷物持ちにそんな突っかかるなって、なぁマヒトちゃん」
柄の悪いパーティーに入ったぼくは鍛冶師なのに荷物持ちをしていた。
最初はこんな奴らだと思わなかった。和気藹々とした雰囲気を纏ったパーティーだった。
でも本性は鍛冶師の誇りに泥を塗りたくるような冷たい奴らだった。
稼ぎが悪くなるとぼくの賃金だけ減らされるようになったし、もういろいろと最悪。
「じゃあ、明日も頼むよ。荷物持ちのマヒトちゃん」
ぼくは頷く代わりにため息を吐いてやった。
「へー、態度悪いね、マヒトちゃん」
ぼくは咄嗟に頷いた。
「ははっそれでいいんだよ。じゃあな」
はぁ、ほんと、このまま死ぬまでこのパーティーと一緒なのかな? 逃げられないかなぁ、逃げたところで追いかけてくるか。
「はぁ、最低最悪」
「ため息なんて吐いて何か悩み事かな?」「若いのに悩み事?」「チートの時代に悩み事なんてあるのか?」
と、ローブを纏った人たちはぼくに訊いてきた。
「え、ええと……」
「なになに怪しい者ではない、わたしたちは清浄チート教団だよ。聞いたことくらいあるだろ?」
なんかヤバい宗教団体だったっけ?
「聞いたことはあります」
「そうかそうか、なら君は我らの同志だ」「そうよ同志よ」「同志万歳!」
「え、あ、はい万歳」
「おお、それでいいんだ。そんな誠実な君には特別にローブと聖書を贈ろう」「いつでも教団に来てね」「歓迎する!」
と言って、嵐は去っていった。
清浄チート教団か……今のパーティーを辞められるならいいけど、辞められないよなぁ。
家に帰ってきたぼくはお風呂に入って寝床の準備をした。
ぼくは他の人より弱く生まれた。カラダも弱ければこころも弱い、おまけにチートも最弱だ。
「久しぶりに鉄を打ちたいけど、今日も荷物持ち疲れたなぁ」
と、ぼくは布団の上ではなく畳の上に寝転んだ。
お父さんお母さん、会いたいよ。