3最強の夢
ぼくの夢は普通の暮らしをすることだ。
「クビだ」
「え、マジですか?」
齢十七にして仕事を失った瞬間だった。
「チートを使わない奴はクビだ」
と、追い出された。
「チートを使わないヒトを雇うのはねぇ」
「チートを見せてみろ……え? 使わない? じゃあダメだ、うちでは雇えない」
「ノンノンノン、チート、チート、チート。デス」
どこもかしこもチートだ。
「はぁ、全滅」
と、ぼくはバイトの面接に落ちたところだった。
「ポチ、ごめん、ぼくは君ともいられなくなりそうだ」
「クゥーン」と鳴くポチ。
「悲しいけれどこれが現実だ」
「ワン!」
「え? ポチが働くって? 無理だよ、ポチのチートは持久力無限ってそんなに使えるチートじゃ……」
いや待て、運び屋の仕事ならポチは簡単にやってのける。
え、もしかしてぼくって犬よりも使えない人間になっちゃった?
「はぁ」
もうため息しか出ない。
この世界酷くないか? チートを使わないと仕事すら与えられないってなんだよ。いや、ぼくがチートを使えば話は別だろうけど……酷い世界だ。
「よわと」
と、ぼくを呼ぶ声が聞こえた。知渡子だ。
「仕事クビになっちゃったね」
今のぼくに一番グサリと来る言葉だ。知渡子には人間のこころがあるのか? ないな。
「ははは……この村にはぼくの居場所が無くなってしまった。次は少し離れた町で仕事探しだ」
「じゃあ冒険者になりなさい。わたしの付き人としてわたしに知恵を与えるの」
どうしてそうなる。
「冒険ってどんな冒険? 危険な冒険?」ぼくは訊いた。
「わたしの冒険に危険とかいう危なっかしい文字あると思う?」
ないだろうな。日堂知渡子には神をも恐れる神が憑いている。それは神と言うのか邪神と言うのか判らないが、日堂知渡子には最強のチートがついている。
「知渡子は何を目指しているの?」
「はぁ? あんたバカぁ?」
バカって、どうしていつもそうなる。
口を開けばバカバカって、理不尽だ……確かにぼくはバカだけど。
「この時代で目指すものって言ったら冒険者であり、叶うことなら勇者になりたいでしょ」
「じゃあ知渡子は勇者になりたいわけだ」
「あんたバカねぇ、勇者は魔王を倒した時の称号でしょう。そんなちっぽけな称号に興味はない」
「え、じゃあ知渡子は何になりたいの?」
「わたしは魔王になる! いつかは魔王を倒してわたしが魔王になってやる。魔王より強い魔神がいるならそいつも倒してわたしが魔神になってやる」
「えぇ……」
ぼくは言葉を失った。この女、最強である。
「なによ。顎外れたような顔して」
「もし仮に魔王になれたら知渡子は何をしたいの?」
「うっさいわねぇ、どうでもいいでしょ。魔王になったら次は何をしようか考えるの。だから今は魔王を倒すことだけを考えているの」
まぁ、知渡子には知渡子なりの夢があるらしい。
「そっか、それが知渡子の夢か」