29鍛冶師を求めて
鍛冶師を探せ、それがぼくの任務だ。
「目標発見、女性の鍛冶師だ。ポチ、準備は良いか?」
「ワン!」
「よし、行くぞ!」
「ワンワワンワワ~ン」
と、ポチは女性鍛冶師の方へトコトコ歩いていき、止まった。
「あらあら? ワンちゃん迷子?」
「ワン!」
「そっかー、わたし犬語分からないからなぁ。でも迷子よね?」
「ワワン」
良い演技だぞポチ。
「じゃあギルドのヒトに聞いてみましょうか」
と、女性鍛冶師はポチのリードを引いた。
よし、かかった!
「あの! その犬ぼくのです!」
とぼくが登場する。
「あらあら、そうだったの、飼い主が見つかってよかったわ」
「いやー助かりました、ところでお嬢さんは今何をしていたんですか?」
「あーわたし、鍛冶師だから鋼を買ってきたの」
「なんと! そうでしたか、これも何かの縁です」と、ぼくは続けて、「あの、もしよかったらぼくのパーティーで鍛冶師をしてくれませんか?」
「あらあらごめんなさいねぇわたしもうパーティー組んでいるから」
そう言われてしまえば終わりだ。
「あはは……じゃあ無理ですよね」
「ごめんなさいねぇ」
鍛冶師女性は去っていった。
「ポチ、これで何敗だろう?」
「ワン!」
「そっか一回目か」
いや、一回目じゃないよもう二十回目だよ。どうしよう、この町に女鍛冶師ってもういないでしょ。どうしよう、また知渡子に怒られる。
「はぁ」空気の抜けきったようなため息が出た。
というか知渡子はどうして女の子の鍛冶師にこだわるんだ。女の子にこだわらなければ腕の良い鍛冶師はいるのに。
もうどうしろって言うんだ。
と、ぼくはふてくされながら歩いていた。
すると路地裏から人が出て来てぶつかるわけだ。
ごっつんこ。
「ごめんなさいぼく考え事してて」とぼく。
「イテテテ……いえ、ぼくも考え事をしていて」
ごっつんこした相手はまさかの、
「あ、マヒト君だよね? ぼくのこと憶えている?」
「あ、夜和斗さん」
よかった、憶えていてくれてたんだ。
「あの大丈夫? ケガとかしなかった?」
「ああ、ちょっと頭が痛いくらいです」
「ごめんね、ぼく石頭だから」
とぼくは、尻餅をついているマヒトの手を取って起こす。
マヒトの手は女の子の手のようななめらかな手だった。
「あの、前にパーティーを組もうって誘ってくれたこと、ありがとうございました」とマヒト。
「あ、いや、ぼくも焦っていたからさ」
「それで、ぼく、夜和斗さんのパーティーに入りたいです!」
「え、ほんと? マヒト君ならぼくの幼馴染も喜ぶよ!」
「幼馴染? それって女の子ですか?」
「うん、そうだよ知渡子っていうんだ」
「そうですか、夜和斗さんはパーティー組んでいたんですか」
「うん、マヒト君ならすぐに仲良くなれると思うよ」
お父さんお母さん、見ていますか? ぼくはついに新たな仲間を確保できました。
おじいちゃんおばあちゃん、この世界も残酷ではないんだね。
この時のぼくは、マヒトが抱えている問題を知らなかった。