28勝利はまさかの……
知渡子視点
チッ、一カ月でたった百億しか稼げないの? このギルドは! 使えないわねぇ。
わたし、日堂知渡子はイライラしていた。
いつものこと? そう、いつものことだが、今日はいつも以上にイライラしている。
そこに夜和斗が来て、休みが欲しいなどと言うではないか。
このギルドを建て替えるためにはお金が必要なのに何を言っているの。借金を返さないといけないのに休みなんてあると思っているの?
「却下」
わたしは言う。冷酷さを表現した顔で、悪意を持って。
「一日や二日休むくらいいいじゃないか」
「一日一歩、三日で三歩、三歩進んだら人間は四歩さがるのよ! 休まないで歩くしかないの!」
「それじゃあ休まないで歩いても進歩ないじゃないか」
まったく分からない奴ねぇ、一日休んだら二日も休みたくなるのが人間なのよ。
「夜和斗! 魔王を倒せ! 魔王を倒せ! 魔王を倒せ!」
なぜかわたしを魔王と呼ぶ輩がいる。魔王だなんて失礼しちゃうわ。わたしが魔王だったらあんたらはクズよ。
「夜和斗、あなたこのギルドのギルド内ランキング見た?」
「見たけど、それがどうしたの?」
「わたしたちのギルドはわたしたちが一位なの! つまり社会貢献をしているのはわたしたち<ゼロ>のパーティーなの!」
「ポチのおかげじゃないか、ねぇポチ」
「ワン!」
確かにそうだけど、わたしたちがいるギルドでわたしたちが一位じゃダメなのよ。
「バカ夜和斗、他のギルドに大差付けられているのよ! わたしが言ったのはギルド内での話であり、他ギルドとの競争ではわたしたちのギルドが最下位なの!」
「プラスならいいじゃないか」
「バカねぇ、インフレしたチートの世界では百億なんてゴミよ」
「ゴミって……大きく言いすぎだよ、最下位で百億なんてすごいじゃないか」
「うっさいわね!」
と、現在のわたしは、薙刀を振ってモンスターを倒したところだ。ついでに日頃の鬱憤を晴らすため全力で薙刀を振った。
チートを使わないでモンスターを倒せか……思った以上に面倒だし疲れるわね。
<おおーっと、ここで魔王知渡子選手がリード。我らが夜和斗は何をしている?>
ギルドの連中は実況までつけてわたしと夜和斗の勝負を盛り上げている。
この勝負でわたしが勝ったらあいつらを死ぬまで働かせましょう。
制限時間は一時間だ。
その間にモンスターポイントの高いモンスターをなるべく早く倒す。
わたしが勝ったら夜和斗に何か命令してやろう――例えば、わたしの命令は絶対に聴くとか……いや、それじゃあダメね。一度きりの命令だったら夜和斗も聞き入れてくれると思うから。
と、わたしがポケーっと考え事をしていると、
<我らが希望夜和斗、何とここで遭遇したのはスライムだ! 物理は効かないモンスターをどうやって攻略するのだ? チート無しで倒せるのか?>
えぇスライム? 一匹倒せば百ポイントじゃない! 夜和斗なら絶対に攻略してくる。
こうしちゃいられない、もっとモンスターを倒さなきゃ。
そうして一時間経過したところで、
<試合終了>審判員は法螺貝を鳴らした。
「はぁ」疲れた、ギルドクエストよりも疲れた。
と、わたしは椅子に腰かけた。
これだけやって夜和斗に負けていたら仕方ない。スライムも倒していることでしょうし、わたしが負ける確率の方が高い。
まぁ、チート無しで久しぶりに全力でやれたから楽しかった。
<さあ、結果発表です>
と、審査員は一枚の紙を取り出して、
<120対80で…………>
で、何? 早く発表しなさいよ。
審判は涙を流して、
<120対80で――日堂知渡子様の勝利です!>
え、勝ったの? わたし勝てた?
「ちょっと夜和斗! あんたスライム倒せなかったの?」
「ああ……うん、分裂するわするわでスライムの核を壊せなかったんだ」
そっか、壊せていたらわたし負けていたんだ。
「はぁ」と、わたしはため息が出た。
と、次にわたしは笑った。
「いい勝負だったわね」
わたしは夜和斗に握手を求めた。
「これでぼくの174勝45敗だね」
「違うわよ、わたしの100000勝0敗よ」
記憶違い? いいや、わたしは負けていない。夜和斗程度に負けるものか。
「嘘だー夜和斗が負けるなんて!」「地獄の始まりだー!」「大チート時代が終わるー!」「大災禍第2波の前触れだ!」
そこまでして休みが欲しいか。冒険者をやれるだけで楽しいのにそんなに休みたいかここのバカ共は。
まったく……
「しょうがないから休みくらいあげるわ」
「え、いいの?」と夜和斗。
「勝負に勝ったわたしが言ってるんだからいいの」
『やったぜー! 今日は宴だ! 知渡子の姐さんありがとー!』
こいつら金の使い方変わってないわね。
「その代わりに夜和斗、あんた鍛冶師を見つけてきなさい」
夜和斗は困った顔をした。
夜和斗を困らせるのはわたしの趣味だ。
めでたしめでたし。