20勝負の行方
夜和斗視点
「冒険者さん、ペットを椅子に座らせるのは困るよ」
「床に座りなさいポチ、夜和斗」
ギルドにいるぼくは、今まさに知渡子にお座りを命令されたところだった。
主の言葉には逆らえない。黙って床に座る他選択肢がない。
ぼくは知渡子のペットで通っているけど、ペットって話していいのかな? 勝手にそこら辺を歩いちゃダメかな?
でもペットってどうなのよ。もうちょっとランク高くならなかったのか? 例えば獣人とか、満月の夜になったら強くなるとか、細かい設定が欲しいと思うんだけど。
まぁ、冒険者の仲間になれたからいいか。知渡子も冒険者になれて喜んでいるし。
「上等じゃない! 賭けてやるわ!」
『うおぉぉぉ!』
ギルド内は騒がしくなっている。
なんの騒ぎだろう。と、ぼくはいきなり大柄な冒険者に担がれた。
え、何この筋肉マッチョ、知渡子助けて。
「夜和斗を放しなさい!」
「こいつは賭けに使う」と大柄な男は続けて、
「お前の持つ動物一匹とおれの持つ動物一匹を戦わせて勝った方が何でも言うことを聞く」
つまりぼくは何と戦わされるんだ?
「いいわよ、言っとくけど、わたしの夜和斗は今までに一度たりとも負けたことがないわよ」
そりゃ嘘だ。ぼくは中間期末テストで知渡子に勝ったことないよ。あ、でも体力テストくらいは勝っていたかな?
「新人には新人なりのアドバンテージをくれてやるが……筆記と実技どっちがいい?」
「実技で」
「いいねぇ実技はおれたちも得意だ」
「それで、どんな勝負?」
「腕相撲だ」
「腕相撲?」
「おいで、くまぁ」と大柄な男。
「くまー!」と言う熊。
え、ただの熊じゃん。どうやって腕相撲で勝つんだ?
「勝ちなさい夜和斗」
勝つって、チートを使うほか勝てないじゃないか
『くまぁー! やっちまえ』
「くまくま!」と熊は可愛く言う。
《名前:くまぁ ステータス:耐久力99999 チート:知能チート・筋力チート》
《名前:世輪背川夜和斗 ステータス:耐久力142 チート:不明》
えぇ、相手は知能チート持ってる熊かよ。しかも筋力チートを持っているし絶対に勝てない。と言うか素の耐久力化け物かよ、ボスバトルって言っても最初の冒険で現れちゃいけないボスだろ。
「ほほぅ、珍しいねぇその動物。チートが不明とは初めて見た」
「言ったでしょ、わたしの夜和斗は負けたことがないって」
「ははっそうかい、じゃあ今日で連勝終わりだな」
「何ですって?」
「おれと一緒に育ったくまぁはおれよりも強くなった。今ではくまぁはくまぁ会のドンだ」
くまぁ会って何ですか? 凄いほわほわもこもこしてそうですよ。
「お前さんの動物じゃあおれの動物には勝てねぇよ。おれとくまぁとの絆は絶対に切れねぇ糸で結ばれている」
ぼくを動物だと? いや動物だけどなんか悪意ある呼び方だなぁ。
と、ぼくとくまぁは握手をして腕相撲の配置に移動する。
チートを使うか、それでしかぼくの人権を守ることは出来ない。
呼吸を整えろ、
「圧縮領域展開、筋肉」
説明しよう、圧縮領域とは――ぼくのチート領域を圧縮して一対一の状態に持ち込んだ領域だ。故に、熊のステータスはぼく以下になる。
「くまくま!」(本気でこい!)
「ごめんよ、手加減出来ない。この領域は未完成だ」
「くまくまくま」(そんなこと言われてもワシくまやし)
「そうか、来なよくま」
「くまくま」(なんやこいつ気持ち悪っ)
「くまあああぁぁぁ!」
「はぁああああああ!」
『行け! くまぁ!』
「負けないで夜和斗!」
大丈夫だ知渡子、ぼくは何があっても負けない。
もう諦めない。
「筋力チート反転!」
あゝ我が筋力よ、筋力よ、この怒り荒ぶる熊を鎮めたまへ。
「くまぁぁぁぁぁ!」
くまぁは壁に向かって吹っ飛んだ。
『くまぁぁぁぁぁぁぁ!』
屈強な男たちは叫んだ。
壁に激突する熊を見て、大柄な男が走り出した。
「くまぁ! お前は良くやった、あんなチーター相手にお前は良くやったんだ!」
なぜかぼくが悪者にされている気がする。視線が痛い。
何はともあれ、
「勝負はぼくの勝ちだ」
と、知渡子は腕を組んで、
「あんたたち、なんでも言うこと聞くのよね?」
「ひえぇぇぇ!」
ギルド内には悲鳴が響いた。