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2チートの世界

 ぼくの生まれた世界はチートが当たり前だった。

 水を汲み上げるにもチート、火を起こすにもチート、お湯を沸かすにもチート、何もかもがチートにまみれていた。

 魔法だったら良かったのに、残念なことこの上ないこの世界はマナやスタミナなんていう概念は存在しない。


 そんな世の中で、ただ一人ぼくはチートを使おうとしなかった。

 チートを使わないが故に、今では異端者として村はずれの小さい家でランニングチートを使う犬のポチと一緒に暮らしている。

 ポチとの散歩は大変だ。散歩の度に一時間以上を休憩なしで全力疾走するのはポチくらいだ。そんな大変な面があるけど、ポチの<ノーマルスキル=可愛い>があればなんとか乗り越えられる。

「はぁ、疲れた」

 と、ポチとの散歩を終えたぼくは家の中に入った。


「おかえり」

 そう言うのは知渡子だった。なぜぼくの家にいるのか不思議だが、知渡子のチートならぼくの家の鍵を開けることは容易いだろう。

「なんで君がいるんだ……」

「わたしがいて何が悪いの?」

 別に幼馴染が家にいるのは悪くない、けれど不法侵入だ。うん、完全に悪いのは知渡子だ――この犯罪者め。


「帰ってくれ」

「いやだ。あんたがチートを使うまで帰らない」

「どうしてそんなにぼくのチートを見たいんだ……」

「チート無くして世界は生まれなかった。そしてチート無くして世界のモンスター共を倒すことは出来ない」

「モンスターをハントしたいなら好きにやればいいじゃないか。ぼくが冒険に出ても足手まといだろ」

 そう、ぼくは知渡子の冒険に付き合わされそうになっている。

「一度もチートを見せないのはあんたくらいよ。使えるチートか使えないチートかわたしが見極めてやるって言ってるの」

 

 唯一アンチチートなるチートを使える知渡子を前にしたら魔王ですら尻尾をまくだろう。だからぼくが冒険者になる必要はない。

「ぼくのチートは冒険者向きじゃないって言ってるだろ」

「そんなの見てみなきゃわからないじゃない。あんた昔魔王を倒すのはぼくだって言ってたじゃない」

「昔の話だよ。今は魔王の仲間になりたいくらいだ」

「あんたバカ?」

 バカだよ。誰よりもバカだ。チートを使える世界に生まれておきながらチートを否定しているあたりぼくは大バカだ。

「バカだよ。だからぼくにこれ以上関わらないことだ」

 とぼくが言えば、知渡子は「もういい!」そう言ってからぼくに向けて中指を立てた。


 ぼくは冒険はしない。ぼくは冒険者に向いていない。

 いいや――ぼくは何者にもなれない。


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