16最弱のチート
夜和斗視点
領域乖離――ぼくはチート領域の深淵のさらに深淵を覗いていた。
「今まで言わなかったけど、ぼくのチートは――【1日1分間だけ最弱になれるチート】だ」
『…………』
静寂だけがうるさかった。
「……つまり何?」
「つまり君たちはぼくのチート領域にいる間、世界最弱になれる!」
これでチェックメイトだ。
『ぶっははははっ』と失笑する者たち。
どうして彼ら彼女らは笑っているんだ? ぼくのチートがそんなにおかしいのか?
「そんな役立たずのチートで何ができるんだ?」「チート領域を展開させたところでそれじゃあ不便でしょ」
何ができるのか? 何もできないよ。けど不便ではない。
「最弱になれることがそんなにおかしいか」
「おかしいねぇ、はらわたが口から飛び出すくらいに面白いよ」
「なら来なよ、本物のチートを見せてあげる」
「はっ! そんなものはチートの前で無力だ! 本物のチートはこう使うんだよ!」
と、教団のチーターは火炎チートをぼくに使ってきた。町ひとつを燃やし尽くす炎は凄まじかった。
しかし、ぼくには効果がない。
「言っただろ、このチート領域内で君のチートは最弱だ、それ故にぼくのカラダにダメージはない」
それにぼくにはポチに鍛え抜かれた持久力がある。体力でぼくを上回ることは難しいぞ。
「ならば筋力チートだ! 行け! 脳筋の力を見せてやれ!」
「おほほいっおほほいっ! うひゃうひゃ!」
と、ぼくに向かってきたのは超火力特化のゴリラのような人間たちだ。
でも、
「無意味だよ、今のぼくは核爆弾すら無効化する」
1分間はぼくの火力の方が上だ。
「おほぉおぉぉぉぉぉ!」
ぼく程度に受け止められてしまう筋肉自慢の輩は、野生の本能なのか叫んで逃げてしまった。
「くっそおぉぉぉ! ならお前ら! 頭脳のチートを見せてやれ!」
「嫌です無理です。あんなのに勝てるわけありません、もう自害した方がいっそのこと楽になれますもう嫌です無理です助けてください神様仏様」
「うぁあああ蟻さん助けてー、俺が死ぬにはまだ早い」
頭脳優秀な彼ら彼女らももぼくの頭脳の下を行く。領域を展開した時点でぼくの勝利は確定している。
「言っておくけど、ぼくは頭が悪い」
「なんだとぉ! これじゃあ頭脳明晰な奴らもバカのさらにバカのバカじゃねぇか! 畜生めぇ!」
一分間耐えればいいだけだろうけど、そんな考えが最弱にあるわけがない。
「今回の司令塔は誰だ?」
ぼくは訊く。
「あいつです! 教えたからどうか命だけは!」
モブが指差す方にはザコがいた。
「チッ、頭が回らん。ここは逃げさせてもらう! 命びろいしたな日堂知渡子、しかしわたしたち反チート組織は貴様を追い続けるだろう」
ザコは言って煙のように消えた。
ぼくはモブ共のほっぺを叩いて気絶させる。
これで終わりだ。知渡子も生きているし、一件落着。
と、ぼくが領域を解除すると、知渡子が近寄ってきた。
「助かったわ、ありがとう夜和斗」
「いいや、ぼくは助けられてばかりだから」
なんだか恥ずかしいな。
「てかあんた、そんなチート持っていたなら初めから使いなさいよ!」
「え、いやでも、あれはそんな簡単に出せないから」
「じゃあ、もう一回見せなさいよ!」
「いや、だから、ぼくのチートには発動条件があって……」
「条件? それは何よ?」
「それは……ぼくとポチの秘密だ」
「はぁ? 言え! 黙って見せろ!」
と、ぼくは知渡子に追いかけられた。
お父さんお母さん、ぼくは誰かを守ることができました。
おじいちゃんおばあちゃん、誰かに優しく接するのは気持ちがいいね。